今古奇観 上(きんこきかん)抱甕(ほうおう)老人 千田九一(ちだくいち)・駒田信二訳 平凡社古典文学大系37 1,600円 昭和45年(1970年)9月(昭和49年(1974年)1月第2刷)
今古奇観 下 抱甕老人 駒田信二・立間祥介訳
嬌紅記 宗遠 伊藤漱平訳
平凡社中国文学大系38 1,800円 昭和48年(1973年)4月(昭和49年1月第2刷)
・今古奇観 上
宋代の口語の短編集を平妖伝の馮夢竜がまとめたものを、さらに明代末期に抱甕老人(正体不明)が40話を選択・整理したもの。上巻のこの本は第22話まで。
落語のように枕があるものが多い。さらに落語の紺屋高尾そっくり(こちらは油屋)の話もあり、江戸時代の日本にも影響を与えたことがわかる。
また、歴史書では、飲み屋で飲んだくれているときに玄宗に呼び出され、泥酔状態でも楊貴妃の美をたたえる詩3編をすらすらと書いたときに、酔っ払った勢いで高力士(玄宗お気に入りの宦官)に履を脱がした話は、かつて李白が高力士や楊国忠に辱めを受けた意趣返しと話が複雑になっている。
荘子が早く再婚したくて亡夫の墓を乾かしている話を妻にしたところ、妻が私は絶対にそんなことはしないといったので妻を試した話などはそのままである。
平妖伝のもととなった王則の乱の話もちらっと出てきる。首謀者たちは妖術使いということになっていて、はやり白蓮教のつながるものたちのイメージが浮かんでくる。
アイテムとして日本刀が出てきたり、外憂として倭寇や関白秀吉も出てきたりする。
筆者は第3話で儒・仏・道の経典は千言万言あるがまったく無用で「孝悌」の2字だけでいいと言い切っている。でもここで取り上げられている話は、たしかにバックボーンに因果応報とか天網恢々疎にして漏らさずというものが多いが、それほど堅苦しいものではないので気楽に読める。もちろん、妖術のたぐいは出てこない。
・今古奇観 下 嬌紅記
前半は今古奇観の続き第23話〜第40話。
嬌紅記は科挙試験受験者(一度落ちて二度目に受かる)申純(しんじゅん)と、申純の母方の叔父の娘(つまり従姉妹)嬌娘(きょうじょう)の悲恋物語。試験に落ちて鬱になったので、気晴らしに叔父を訪ねて滞在するうちに嬌娘と恋仲になってしまうが、従姉妹同士は結婚できないという国法を盾に叔父は許さない。しかし、後に科挙に合格し(進士になり)、さらにかつては嬌娘の侍女、後に叔父の妾になった飛紅(初めは嬌娘を妬むが、のちに気心の知れた仲になる、題名の紅)の取りなしもあり、叔父も二人を結婚させる気になる。しかし、嬌娘の美貌を知った知事である叔父よりも上役の師使(ずいし)の息子に切望され、婚約は破棄、この息子との結婚を承諾してしまう。絶望した二人は衰弱死する。哀れみ後悔した叔父たちは二人を合葬する。
ただ、この物語の時代は北宋末期の1121年〜1127年・28年。つまり、1126年に開封府が金に席巻され、さらに1127年には退位していた徽宗帝と欽宗が金に拉致され、欽宗の弟高宗は南へ逃げ(南宋)、1128年には高宗はさらに揚子江を渡るという大混乱の時代のはず。それなのに、科挙は粛々と行われていて、任命された知事は現地に赴任するという、戦乱の状況はまったく出てこない。物語の舞台は蜀の成都とその近くなので、こちらでは平常通りの生活が送られていたのだろうか。
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2019年5月記