結局、ウナギは食べていいのか問題 海部健三 岩波科学ライブラリー286 ISBN978-4-00-029686-1 1,200円 2019年7月
議論しようにも基礎的なデータさえないニホンウナギ。日本、韓国、台湾、中国でシラスウナギ捕獲の上限を決めたが、その上限の1/2程度しか捕獲できていない、つまり“上限”が何ら意味を持っていない現実。
データがない一つの理由は、捕獲業者がきちんと報告していないことがあるという。それは、シラスウナギは捕獲した県で売らなくてはならないが、その価格は県ごとに決まっているのために、価格の高い県で売るので(業者としては違法と知っていてもやるだろう)報告できないという構造。つまり、反社会的勢力が絡んでいるだけではなく(一部にあるようだが)、業者ぐるみで違反している、それをさせている法律が現実的でないという問題(かつてシラスウナギが大量に捕れていたころの価格保証制度がそのまま残っている)。なので、こうしたことに対する業者の敏感さ、つまり一部の研究者と意図的に癒着し(御用学者も多くいるみたい)、そうでない研究者に圧力をかける。
もちろんデータがないもう一つの理由は、ウナギ(ニホンウナギ)の生態がよくわかっていないことだろう。ようやく産卵場所が突き止められつつあるようだが。これと関連して、“放流”にはまったく意味がないことが明らかになってきた。つまり、サケのように生まれ故郷の川に戻るのではなく、ウナギは生まれ故郷の海に戻るので、日本にやってくるときは遡上する川は放流した川でない、いろいろな川(日本だけではない)ことが多いという。子供を使って放流イベントをやるのは悪であると言い切っている。
ウナギの減少の三大要因は(1)過剰な漁獲 (2) 生育場環境の劣化(川を遡れないダム・堰など) (3)海洋環境の変化だそうだ。
(1)については、ウナギは養殖場の記載を求められいるだけで、シラスウナギの産地は記載しなくてもいいことが、密漁・密売につながっているので、ここを改善すべきだという。現状では、どんな“高級ウナギ”でも、その中に密売・密漁されたウナギが混じっていることは確実だそうだ。
いま、「持続可能なウナギ養殖」に取り組んでいるのは岡山県のエーゼロ(株)というベンチャー企業、もう一社は販売大手のイオンが「100%トレースできるウナギ」(第三者によるものではないが)を目指していて、この2社だけだそうだ。
筆者は自らは「ウナギは食べていいのか」の結論は書いていないが(消費者の判断としているが)、この本を読めば「持続的な利用」を望むのなら、安易にウナギを求めない方がいいという結論しか出てこないと思う。ウナギの蒲焼きはおいしいとは思うが、1年に何回も食べるものではないし(食べなくても困らないし)、年2回ほど頂くことがあるので(昨日の夕飯はその残り)、このくらいでいいかなぁと(つまり送ってくれる方には辞退しない)。
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2019年7月記