漢帝国 渡邉義浩 中公新書 ISBN978-4-12-102542-5 880円 2019年5月
帯にもあるように、漢字、漢民族という言葉があることからして、漢帝国は今日の中国と中国人(漢人)のアイデンティティを形成したのだろう。表向きは“礼”(“先例”でもある)を尊ぶ儒教を国家のイデオロギーにしたことも、後の帝国の規範になった。さらに張騫〜班超(父は班彪、兄は班固、妹は班昭の歴史家族)の西域で奮闘にによって、大秦国(ローマ帝国)まで連絡する世界帝国でもある。
この本では王莽による中断(「新」帝国)も、単なる中断ではなく、後の「儒教国家」への連続階段と見なしている。
だが、国家を治めるに当たって、旧来の封建制を一気に郡県制(完全中央集権)にしたのはやはり秦の始皇帝だろう。秦末期の混乱した状況を統一した劉邦は、いろいろな意味で妥協(封建制の一部復活など)せざるをえなかったのだろう。あの時点での黄老思想はそれなりの意味はあった。ただ、この本では政権奪取後の劉邦の冷酷なまでの功臣(韓信、彭越、英布たち)切りについてはあまり述べられていない。
毛沢東は、中国全土を完全支配したのは始皇帝以後自分がようやく二人目だとうそぶいたことがあるらしい。たしかに、悪名高い焚書坑儒についで、支配者として孔子を批判したことになる。そればかりか、毛沢東はさらにそれを徹底した〔“毛思想”で人の心も支配した)という意味では、始皇帝を寄せ付けない。内戦以上に党内党派闘争(その延長の“文化大革命”)で大勢の人(数千万人?)を死に追いやったことを考えると、始皇帝の粛正・虐殺など可愛いものかもしれない。
習近平は第2の毛沢東を目指しているのだろうか。カリスマ性が足りないように思えるが。
それにつけても、日本ではまだ弥生時代だったころに、文書で歴史が残っているのはすごいと思う。“文明の発祥地”の4ヶ所のうち、今日再び力を誇示できるまでになったのは中国のみ、ほかの3ヶ所の今後は?
目次
はじめに
第1章 項羽と劉邦 時に利あらず
第2章 漢家の拡大と黄老思想 「無為」の有用性
第3章 漢帝国の確立 武帝の時代
第4章 漢家から天下へ「儒教国家」への始動
第5章 「古典中国」への胎動 王莽の理想主義
第6章 「儒教国家」の成立 「古典中国」の形成
第7章 後漢「儒教国家」の限界 外戚・宦官・党人
第8章 黄天 当に立つべし 三国志の始まり
終章 漢帝国と「古典中国」
あとがき
さらに深く知りたい人のために
関連年表
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2019年6月記