「勝ち組」異聞

「勝ち組」異聞 深沢正雪 無明舎出版 ISBN978-4-89544-624-2 1,800円 2017年7月

 第2次世界大戦後のブラジル移民の中で、日本の敗北を認めない「勝ち組」と、敗戦を認める「負け組」(認識派)の対立、しかも殺人さえ起きた対立があったとは知っていた。

 この本では、ブラジル移民が置かれた立場、基本的には出稼ぎ意識で来ていたのに、戦争によって日本に戻れなくなり、また戦争中は枢軸国の国民として迫害されという中で、日本人というアイデンティティ(日本と連絡が途絶えたことで極端化する)を守ろうとしたという背景を解説する。さらに、戦争中はそのアイデンティティを守ろうと運動していた中核的なメンバーが、戦後に手のひらを返したように「認識派」になって行くことの反発、こうした中で「勝ち組」が形成されていったこと。あまり実体のわからない「臣連(臣道連盟)」が、ブラジル官憲やそれと手を結んた「負け組」によって、臣連関連ということで徹底弾圧された経緯なども書かれている。被害者の遺族ばかりではなく、実際に勝ち組として手を下した人に対するインタビュー、またこれまでなぜか抹殺されたジャーナリスト岸本昴一にも光を当てている。

 本書は様々な「勝ち組・負け組」に関するテーマで現地の日本語新聞(週5回発刊)ニッケイに連載されたものをまとめたものなので、重複した内容も多い。また、ニッケイとあるので日経かと思ったら、もちろんこれは日系だった。現地ではサンパウロを“聖”と表現し、現地の日本語では当たり前のように聖市、聖州と使っていることもわかった。もちろんブラジルは伯国。

 筆者は日本で生まれ育ったようだ。その彼がなぜブラジルに渡って、現地の日本語新聞で働くようになったのかにも興味があるが(日本でブラジル人と働いたことがきっかけ?)、この本では書かれていない。

 出版した無明舎出版は秋田の出版社で、秋田や東北関連の書物が多いが、なぜかブラジル関係の本もいくつか出している。

目次
I 「勝ち負け抗争」の流れ
II 大宅壮一が見た「明治が見たければブラジルへ!」の意味
III 日本移民と円卓地ナショナリズム
IV 身内から見た臣連理事長・吉川順治
V 二人の父を銃弾で失った森和宏
VI 襲撃者の一人、日高徳一が語るあの日
VII 正史から抹殺されたジャーナリスト、岸本昴一
VIII 2000年に開かれた日系人の「パンドラの箱」
IX 子孫にとっての勝ち負け抗争
「勝ち負け抗争」年表

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2019年7月記

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