陰謀の日本中世史

陰謀の日本中世史 呉座勇一 角川新書
ISBN4-04-082122-1 2018年3月(2018年4月第3刷) 880円

 この本は、日本の中世における出来事を、“それは誰それの陰謀”とする、いわゆる陰謀論を真っ向から否定するものである。

 筆者はあとがきで陰謀論と疑似科学との類似性を指摘しているが、その通りだと思う。また、専門家の問題点も指摘してるが、これもその通りだと思う。そうしたなか、あえて「猫の首に鈴をつける」ことをしている筆者を支持したい。

 なお、この本のカバーは二重になっていて、“派手”な方(3枚目、4枚目)が外側になっている。

 後書きで共感した部分「一見して偽物とわかる史料、論ずるに値しない珍説トンデモ説は、いちいち反論せずに黙殺すべきだ、〜略〜、日本史学会の共通認識であろう。だが、すべての日本史研究者が「時間の無駄」と考えて無関心を決め込めば、陰謀説やトンデモ説は致命傷を負うことなく生き続ける。場合によってはマスコミや有名人に取り上げられ、社会的影響を持つかもしれない。誰かが猫の首に鈴をつけなくてはならないのだ。」とか、「おおげさに通説を批判。妙に使命感が強い。」です。

 あと陰謀論の特徴として下のようなものをあげています。最後の“優越感”が陰謀論にはまる大きなポイントだと思います。
加害者(攻撃側)と被害者(防御側)の実際には逆である可能性を探る
結果から逆算した陰謀論
最終的な勝者がすべてを予測して状況をコントロールしていたと考える陰謀論
陰謀は秘密裏に遂行しなくてはならないため、参加者を限定せざるを得ない
事件によって最大の利益を得た者が真犯人
特定の個人・集団の筋書き通りに歴史が動いていくという典型的な陰謀論
死角のない完璧な犯罪計画など存在しない
陰謀実行の最大の難しさは、参加者を増やせば、情報が漏洩するリスクが高まる
因果関係の単純・明快すぎる説明
論理の飛躍
結果から逆行して原因を引き出す
起点を遡ることで宿命的な対立を演出する
検証責任の転嫁
「歴史の真実を知っている」という優越感

目次

まえがき
第一章 貴族の陰謀に武力が加わり中世が生まれた
第一節 保元の乱
崇徳と頼長に謀反の意思はなかったetc
第二節 平治の乱
平清盛の熊野参詣に裏はない/後白河黒幕説は成り立たないetc.

第二章 陰謀を軸に『平家物語』を読みなおす
第一節 平氏一門と反平氏勢力の抗争
清盛が陰謀をでっちあげた/以仁王の失敗は必然だったetc
第二節 源義経は陰謀の犠牲者か
後白河は頼朝の怒りを予想していなかった/源義経の権力は砂上の楼閣だったetc

第三章 鎌倉幕府の歴史は陰謀の連続だった
第一節 源氏将軍家断絶
源頼家暴君説は疑問/策士・時政が策に溺れた「牧氏事件」etc
第二節 北条得宗家と陰謀
時頼黒幕説は穿ちすぎ/霜月騒動は正規戦だったetc

第四章 足利尊氏は陰謀家か
第一節 打倒鎌倉幕府の陰謀
後醍醐の倒幕計画は二回ではなく一回/尊氏は後醍醐の下で満足していたetc
第二節 観応の擾乱
尊氏がつくった北朝は尊氏の手で葬られた/足利尊氏=陰謀家説は疑わしいetc

第五章 日野富子は悪女か
第一節 応仁の乱と日野富子
日野富子は足利義視に接近していた/足利義政は後継者問題を解決していたetc
第二節 『応仁記』が生んだ富子悪女説
史実は『応仁記』と正反対/富子悪女説が浸透した三つの理由etc

第六章 本能寺の変に黒幕はいたか
第一節 単独犯行説の紹介
ドラマで好まれる光秀勤王家説と光秀幕臣説etc
第二節 黒幕説の紹介
一九九〇年代に登場した朝廷黒幕説/「足利義昭黒幕説」は衝撃を与えた/荒唐無稽すぎるイエズス会黒幕説etc
第三節 黒幕説は陰謀論
黒幕説の特徴/近年主流化しつつある四国政策転換説/空論etc

第七章 徳川家康は石田三成を嵌めたのか
第一節 秀次事件
豊臣秀次は冤罪だった/新説「秀吉は秀次の命を奪う気はなかった」etc
第二節 七将襲撃事件
「三成が家康の伏見屋敷に逃げ込んだ」は俗説etc       

第三節 関ヶ原への道
「内府ちがいの条々」で家康は窮地に陥った/「小山評定」は架空の会議/転換点は岐阜城攻略戦etc

終章 陰謀論はなぜ人気があるのか?
第一節 陰謀論の特徴
因果関係の単純すぎる説明/論理の飛躍/結果から逆行して原因を引き出す/挙証責任の転嫁
第二節 人はなぜ陰謀論を信じるのか
インテリ、高学歴者ほど騙されやすい/疑似科学との類似性/専門家の問題点etc

あとがき
主要参考文献

 

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