がん免疫療法とは何か 本庶佑 岩波新書
ISBN4-00-431768-5 760円 2019年4月
本人による解説書。ただ、免疫療法自体の解説はあっさりしていて、生命のこと、さらには社会と生命科学の関係(製薬企業との関係、科学ジャーナリストの人材不足など)、医療の問題なども書かれている。とくに最後の医療の問題は、たぶん筆者自身も気にしているだろうオプジーボが高額すぎる(お金持ちだけが助かる、国や自治体の財政を圧迫)という批判も念頭においているだろう。いずれにしても、筆者が危惧し、危機感を持っているのは、基礎生命科学から医薬品開発までを一貫して見通して研究費を出すところが日本にはない、このままではあっという間に諸外国に置いて行かれるということだ。これはこの問題に限ったことではないが。
※ 記述に重複が多いと思いながら読んでいたら、筆者の以前の著作2冊(いずれも岩波の「命とは何か」「PD-1抗体でがんは治る」)を収録し、さらに加筆したという本だったからでした。
目次
はじめに
第1章 免疫の不思議
生命システムの一般則/多細胞生物体の特徴/免疫のしくみ/獲得免疫の原理/特異性と制御/免疫の全体統御
第2章 PD―1抗体でがんは治る
1 革新的がん免疫療法の誕生
2 免疫学の発展とがん免疫療法のたどった道
3 PD―1抗体治療の研究・開発の歴史
4 PD―1抗体治療の今後の課題
5 基礎研究の重要性――アカデミアと企業の関係を考える
第3章 いのちとは何か
1 幸福感の生物学
2 ゲノム帝国主義
3 有限のゲノムの壁を超えるしくみT――流動性
4 有限のゲノムの壁を超えるしくみU――時空間の階層性
5 ゲノムに刻まれる免疫系の〈記憶〉
6 内なる無限――増え続ける生物種
7 生・老・病・死
8 がん,細胞と個体の悩ましき相克
9 心の理解への長い道
10 生命科学の未来
第4章 社会のなかの生命医科学研究
1 現代の生命科学の置かれた位置/生命科学と医療のあいだ/医療・生命科学の社会実装/医学研究への投資/生命医科学研究における競争/国民の生命医科学への理解を深める
第5章 日本の医療の未来を考える
世紀医療フォーラム/国民皆保険制度の維持に向けて/医療をめぐる環境変化と課題/医師不足は本当か/終末期医療と死生観/治療から予防へ
参考文献
ノーベル生理学医学賞受賞晩餐会スピーチ
おわりに
世紀医療フォーラムについて(阪田英也)
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2019年5月記