ふしぎな鉄道路線

ふしぎな鉄道路線 「戦争」と「地形」で解きほぐす 竹内正浩 NHK出版新書 ISBN978-4-14-088592-5 950円 2019年7月

 なぜ、鉄道を敷くのに楽な経路(おもには勾配が緩い、さらに鉄橋が少ない、トンネルも少ない)を選ばなかったかという問題。もちろん、戦時に艦砲射撃の射程外に線路を敷きたい(当然山間部)、でも軍事施設は結びたい軍部と、経済的効果、建設費から勾配の緩いところ(海沿いが多い)や人口の多いところ(運賃収入が見込めるところ)に敷きたい財界のせめぎ合い。もうひとつ、当時はまだ内陸部の正確な地形図がなく、実際に測量してみないと様子がわからない、たとえば御殿場線も地元の人の話がヒントになって、箱根を迂回する勾配の緩いルートを見つけることができたなどある。

 本書では当時の議論の雰囲気を伝えるために、原文のまませているものも多い。たしかに雰囲気は伝わるが、やはり読みづらいので現代語訳(意訳)に頼ってしまうことも多かった。

 いずれにしても、鉄道の役割が大きかった時代、鉄道に活気があった時代、鉄道網をきめ細かくするほど地域も国も活性化する時代だったことがわかる。現在のような負のインフラ化するなど想像もできなかった時代。だいたい、過去の栄光にすがっていつまでも“鉄道王国ニッポン”などと自画自賛しているうちに、その鉄道の技術も世界のトップ水準から遅れていくに違いない。自動車のように。

目次
はじめに
第一章 西南戦争と両京幹線 なぜ中山道ではなく東海道だったか
第二章 海岸線問題と奥羽の鉄道 なぜ奥羽本線は福島から分かれているのか
第三章 軍港と短距離路線 なぜ横須賀線はトンネルが多いのか
第四章 陸軍用地と都心延伸 なぜ中央線は御料地を通ることができたのか
第五章 日清戦争と山陽鉄道 なぜ山陽本線に急勾配の難所があるのか
第六章 日露戦争と仮線路 なぜ九州の巨大駅は幻と消えたのか
第七章 鉄道聯隊と演習線 なぜ新京成線はまがりくねっているか
第八章 総力戦と鉄道構想 なぜ弾丸列車は新幹線として蘇ったか
主な参考文献

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2019年7月記

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