富士山噴火と南海トラフ

富士山噴火と南海トラフ 鎌田浩毅 講談社ブルーバックス ISBN978-4-06-510643-5 1,000円 2019年5月

 この10年くらい、アウトリーチ活動を一生懸命行っている(エンターテイナーにもなっている)筆者だが、ベースはもちろんきちんとした科学者なので、安心して読める。

 氏が恐れている宝永の噴火レベルの富士山噴火は、たしかに有史以後の富士山噴火としては大噴火だが、火山噴火の規模としてはそれほど大きなものではない(0〜8までの火山爆発指数(VEI)では4)。それでも、江戸時代よりさらに脆弱になってしまった現在の社会(電気がなければ成り立たない世界)では、致命的な打撃を与えるだろう。

 富士山はいつかは必ず噴火する、ただその時期はわからない。氏が恐れるように、これまた必ず起こる南海トラフの大地震・巨大地震と連動するかもしれない。ただ、大地震が噴火を誘発する可能性があるかもしれないが、大地震があっても噴火しなかったことも多いので難しい。氏は、富士山噴火の前兆は捉えられる可能性が高いとしているが、このへんも心配だ。つまり、ある程度の規模の噴火の場合、ほとんど不意打ちの可能性もある(2014年の御嶽山の噴火)。逆に噴火の前兆があっても噴火しないこともあるし、想定外の方向に進んだ例もある(2000年岩手山(2011年の地震の後も噴火しなかった)、2000年三宅島)。いずれにしても、氏のいうとおり、噴火の日時まではわからないので、日時までいう「噴火予測」はデマと断言できる。

 もう一つ、氏も恐れているように噴火でなくても、富士山直下、あるいは近くで地震が起きた場合、富士山の山体崩壊が起こる可能性もある。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震の直後の3月15日に、富士山近くでM6.4の地震があったときは緊張した。山体崩壊が頭をよぎったからだ。もし、山体崩壊がおこれば、そしてその崩れた岩石・土砂(たぶん途中から地下水も巻き込んで)が麓の街の方角に流れ出したら、目も当てられない大惨事になる。

 この本でも少し警告しているが、積雪期に噴火が起きても、火山泥流が発生すると思う。いままでの有史以後の富士山でこれが起きていないのも幸運なだけだと思う。

 氏も敢えていっていないし、まあ確かにいっても意味はないかもしれないが、なんといっても怖いのはカルデラをつくるような破局噴火(超巨大噴火)だ。近くの箱根、関東では赤城山、榛名山、それに浅間山も過去に起こしているので、富士山でも例外ではない。日本全体で1万年に1回程度といわれているし、最新の破局噴火が7000年ほど前の喜界カルデラなので、そろそろ危険な時期に入っていると思う。とりわけ富士山はまだ若い大火山なので、富士山が破局噴火を起こす可能性もかなりあると思う。もしそのような噴火が起これば関東は消滅、東日本は壊滅、そのときの風向きにもよるが近畿以西にも被害が及ぶ可能性がある。上に書いたように考えても仕方ないので、残りの人生は脳天気に生きようと思う。

目次
第1部 富士山噴火で起こること

 第1章 火山灰 都市を麻痺させるガラスのかけら
 第2章 溶岩流 断ち切られる日本の大動脈
 第3章 噴石と火山弾 登山者を突然襲う重爆撃
 第4章 火砕流と火砕サージ 山麓を焼き尽くす高速の熱雲
 第5章 泥流 数十年間も続く氾濫と破壊 

第2部 南海トラフと富士山噴火
 
 第6章 地理と歴史からみた富士山噴火
 第7章 「3・11」は日本列島をどう変えたか
 第8章 南海トラフ巨大地震との連動はあるか
 第9章 山体崩壊のおそるべきリスク
 第10章 富士山の噴火予知はどこまで可能か
 第11章 活火山の大いなる「恵み」

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2019年6月記

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