奴隷船の世界史 布留川正博 岩波新書 ISBN978-4-00-431789-0 860円 2019年8月
NHK「日本人のおなまえっ!」にも出てきそうな名字の筆者は工学部(化学工学)出身、民間企業で6年感働いた後大学院に入り、世界史の研究者になったという経歴を持つ。まあ、当時そういう人も多かったかもしれない。筆者は1950年生まれなので。
この本は奴隷の歴史ではなく、奴隷船に的を絞った奴隷の歴史、すなわち、もう近代といってもいい時代以降今日までの奴隷貿易の歴史を述べる。はじめにで紹介される「ロビンソン・クルーソー」の前段、彼が孤島での生活になる前、それだけでも波瀾万丈だが、遭難する最後の航海はまさに奴隷貿易に関わっていたことを知らなかった(忘れていた)。
現在では奴隷船のデータベースもできていて、誰でもアクセスが可能だそうだ。複数の研究者たちの努力、それが囲い込まれていなくて公開されているのが素晴らしい。
奴隷船の構造も出ていて興味深い。また大西洋を横断(主な輸出先は南北アメリカ大陸)するときの死亡率、これも船員の方が高い場合もあったという。船員たち自身も、奴隷的境遇だったことがわかる。
運良く自由になったもと奴隷たちや、また宗教上の理由から奴隷制度に疑問を持った人たち(クエーカー教徒が多い)たちによる、粘り強い奴隷貿易廃止運動、さらに奴隷制度廃止運動により、19世紀半ば(半ば以降)になってようやく世界中で奴隷制は廃止される(合衆国は1865年)。その間、フランス革命はそれとは無関係だったエピソードもある。また、奴隷制廃止を大義名分にした“帝国主義的侵略”もあった。
アメリカで“人種差別”が禁止される公民権法が成立したのは1963年。でも、今日すべてが解決しているわけではない。
筆者はケビン・レイルズの新奴隷制が現在はびこっている、それは「<人間所有>ではなく<人間支配>」、具体的には動産支配(I.S.などに典型的)、債務奴隷制、契約奴隷制という形をとるという考えを紹介している。この本では敢えてぼかしているのかもしれないが、日本でも債務奴隷制(日本への出稼ぎと称するもの、女性に多い?)、契約奴隷制(一部研修生に対するもの)などが、今日なお存続していると思う。
目次
はじめに――ロビンソン・クルーソーの奴隷貿易
第1章 近代世界と奴隷貿易
一 奴隷制の世界史的意味――エリック・ウィリアムズの問い
二 奴隷貿易の歴史的起源
三 明らかになる四〇〇年の貿易実態――歴史学の新たな挑戦
四 アシエント奴隷貿易が意味するもの
第2章 奴隷船を動かした者たち
一 「移動する監獄」――奴隷船の構造と実態
二 奴隷となったアフリカ人たち――人身売買,中間航路,叛乱
三 船長と水夫
四 奴隷商人とエージェント――奴隷船を操る者たち
第3章 奴隷貿易廃止への道
一 サマーセット事件から始まる
二 アボリショニズムの展開――クウェイカー教徒とイギリス国教会福音主義派
三 奴隷貿易廃止キャンペーンと砂糖不買運動
四 ハイチの奴隷叛乱
五 イギリスの奴隷貿易廃止
六 在英黒人とシエラ・レオネ植民地
七 奴隷貿易の終焉
第4章 長き道のり――奴隷制廃止から現代へ
一 奴隷制廃止へ
二 奴隷から移民へ――一九世紀の人流大転換
三 おわりに
あとがき
主要参考文献
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2019年8月記