武田泰淳全集9

武田泰淳全集9 筑摩書房
昭和47年(1972年)6月 1,500円

十三妹(しいさんめい):児女英雄伝の十三妹の話をメインに、平妖伝の白玉堂も加えた荒唐無稽な物語。清朝末期、科挙の勉強中である安公子(安坊ちゃま)の第2夫人になった女忍者十三妹が、父を助けるために旅に出た、でも世間知らずの安公子を守り、さらには北京に戻った安公子の科挙合格まで助けてあげる。そこにライバルの男忍者白玉堂もかかわり、物語はさらにご都合主義に。最後は清朝に敵対する?王の配下のものらしい、これも凄腕忍者の馬老人(安公子と一緒に科挙に受かる)の挑発に乗って、十三妹、白玉堂ともに洞底湖へ?

秋風秋雨人を愁殺す:清朝末期、革命烈女秋瑾の、武装蜂起に失敗して捕まり処刑される前後、また彼女の周囲の人たちを丁寧に追う。秋瑾は日本刀愛好者で、魯迅たち(彼女から見れば軟弱派)をそれで脅かしたこともあるという。和服姿・美人の彼女に日本刀を突きつけられて「死刑」とか言われた魯迅はどういう気持ちだったのだろう。日本での保護者たちへのリップサービスもあるだろうが、日本の教育・軍隊を賛辞している。日本軍のその後を知ったら彼女は? それにつけても当時の日本には、大勢の中国革命烈士がいたなぁ(日本で革命家になったものもいるだろうけど)。
 表題は彼女の遺句。耳から離れられない言葉。もっとも処刑されたのは7月。

王者と異族の美姫たち:晋の重耳(ちょうじ)の生き方。戦国時代の中国で、王族が骨肉の争いをする中で、長い亡命生活を経て晋の王(文王)になるまでの話。自分の思い通りにならない人生。ほぼ、史記に沿っている。

揚州の老虎:清朝崩壊後の混乱した世に担ぎ上げられ、翻弄されたならず者上がりの男の話。

この巻のメインは上の対称的な二つ、荒唐無稽な話vs史実・資料を丹念に追った話。ただ、これらが書かれたのは、十三妹が昭和40年(1965年)、秋風秋雨人を愁殺すが昭和42年〜一部43年(1967年〜68年)、すなわち中国は文化大革命の真っ最中。その中でも、泰淳は昭和42年(1967年)に実際に中国を訪れ(尾崎秀樹や永井路子も一緒)、秋瑾の記念碑などを訪ねている。また、友人夏衍の困難な情況(実際その7年間投獄)も見ている。どういう気持ちで、これら「中国もの」を書いていたのだろう。

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2018年3月記

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