ジョヴェントゥ ピエル・パオロ・パゾリーニの青春

ジョベントゥ ピエル・パオロ・パゾリーニの青春 田中千世子(たなかちせこ) みずのわ出版
IABN978-4-86426-4C1098 2,400円 2019年1月

この本は著者が好きらしいパゾリーニの若いころに焦点を合わせた伝記です。

 田中さんはもちろんイタリア・イタリア語・イタリア映画に堪能、こちらはほとんど知らないという文化的素養の差がまずあります。それが前提の感想です。

 そもそも、パゾリーニを「カリビアの夜」の脚本家ということぐらいかしか知らなくて(じつは脚本に関わったという程度らしい)、それ以上知らない。パゾリーニが疎開したところ、またその言語にこだわったイタリアのフリウリ地方がどこかも知らない(p.54で最初にフリウリを出したときに、その解説はp.63以降にあると書いてもらえるとよかった、思わずその時点で“フリウリ”を調べてしまいました)、そもそも表題の”ジョヴェントゥ”も調べないとわからないという程度ですから。

 そのフリウリ地方に疎開していたとき、ムッソリーニの失脚後のドイツ侵攻に抗してパルチザンに参加した弟グイードが、味方であるはずの仲間(“共産主義者”チトーが首領の部隊)に惨殺されるという衝撃的な事件を体験します。まるで、スペイン内戦で“背中から撃たれた”オーウェルみたいです(オーウェルは助かりましたが)。もう一つの体験は最後の方にまとめて書かれています。

 そしてその後、ローマに出て詩人、小説家、脚本家、映画監督となっていく過程、その過程でのフェリーニとの確執や“不良少年(セルジォ兄弟)”とのつきあい、スキャンダラスな作家という世評、最後までパゾリーニを尊敬していたらしい女優ラウラ・ベッティの話とか、またほかの映画界の人々のそれぞれの位置などが、まるでモンタージュというか少女漫画のコマ割りというか、時間も空間も自在に絡み合って話が進みます。

 そして最後にフリウリ時代のスキャンダル、さらに殺された原因(と一般的には思われているもの)、つまり同性に対する”愛”が出てきます。これがどうも彼女がこれからも今後も求めるだろう折口信夫−三島由紀夫につながる系譜、とても美しいものに見えるらしい“やおい(→BL)”の延長としてパゾリーニがあるようだとわかってきます。

 ちょっと彼女の“精神分析”をして見たいという気も。まあ、自分自身はパゾリーニが痛切に批判したというコンフォリミズモ(順応主義、日和見主義)と規定される存在だろうとは思います。

目次

第一章 詩人の少年期
1 赤ん坊と揺りかご
2 オイディプス王
3 母、スザンナ
4 父、カルロ・アルベルト

第二章 少年の死、若者の死
1 永遠のための殉教者
2 いつか僕もそこへ行く
3 手記

第三章 ポエジーア 詩と詩情
1 フリウリ語
2 郷土とファシズム
3 詩を書く少年
4 フリウリ語から出発
5 フリウリ語と自治宣言

第四章 ローマ
1 若者言葉と新開地
2 アッカトーネは誰だ
3 セルジォとフランコのチッティ兄弟
4 セルジォの夢

第五章 ノン・コンフォルミズモ(非順応主義)
1 コンフォルミズモとファシズム
2 愛と性とエロス
3 良識の仮面の下のコンフォルミズモ

 

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2018年12月記

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