百姓一揆

百姓一揆 若尾政希 岩波新書新赤1750
ISBN978-4-00-431750-0 820円 2018年11月

 現在の一揆観は白土三平の「カムイ伝」のイメージとはまったく違って、莚(むしろ)旗もないし、竹槍で武装していることも希だというものだそうです。また、“階級闘争”ではなく、為政者は仁をもって民を治めるべきという武士・百姓共通のイデオロギーもあり、それから外れたと百姓が判断したときに一揆を起こし、仁政が復活すれば一揆を終わらせるというものだったそうです。打ち壊しはあっても、(双方)相手を殺すことも滅多になかったともあります。

 ただ仁が復活といっても、一揆自体は命がけの闘争で、盛り上がっているときは新書の帯のように“対等”でも、指導的メンバーが一揆終焉の後に極刑になるということは変わりません。また、一揆には一定の作法があって、それは各地に伝わる(出版はできないので写本)“一揆物語”(史実が背景にある物語)がベースになっているということでした。そこでの理想的な政治家は楠木正成。

 さらに江戸末期になると、惣百姓の総意としての一揆から、“悪党”が主導(扇動)するような形態になったという変化もあったようです。この辺が秩父困民党=暴徒というときの明治政府のイメージ作りがたやすかったことにも繋がるのかなと思いました。

 筆者は歴史学は「現在(いま)という時代の政治的・社会的・経済的・文化関係のなかに身を置く歴史的存在である。」と書いています。これはじつはそうした存在であるヒトが担っている以上、科学もまったく同じだと思います。

目次

著者略歴
はじめに

第一章 近世日本はどんな社会だったか
 1 近世社会像の転換
 2 転換の時代に生きて

第二章 百姓一揆像の転換
 1 『民衆運動史』と展示「地鳴り山鳴り」と
 2 百姓一揆像の転換
 3 ひとつのエピソードから

第三章 百姓一揆を読む
 1 史料とは何か
 2 百姓一揆の記録を読む(一)――『因伯民乱太平記』の世界
 3 百姓一揆の記録を読む(二)――『南筑国民騒動実録』の世界

第四章 百姓一揆物語はなぜ生まれたか
 1 一揆物語の構造
 2 軍書とは何だったのか

第五章 『太平記評判秘伝理尽鈔』がひらいた世界
 1 『太平記評判秘伝理尽鈔』はどのように広がったか
 2 読者は『理尽鈔』に何を求めたのか――自己形成・政治常識・歴史叙述

第六章 百姓一揆物語とは何だったのか
 1 一揆物語の世界を支えているもの
 2 『農民太平記』と一揆物語
 3 百姓一揆物語と明君録

終 章 「近世的世界」の終焉
 1 百姓一揆物語のゆくえ
 2 「仁政」のゆくえ
 3 近世史研究のゆくえ

主要参考文献および史料

 

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2018年12月記

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