宮本武蔵 魚住孝至 岩波新書新赤1167
ISBN978-4-00-431167-6 740円2008年12月
目次
はじめに
序章 「巌流島の決闘」の虚実
第1章 「宮本武蔵」の誕生 「天下一」の武芸者へ
第2章 「ふかき道理」を求めて 幕藩体制確立期の社会で
第3章 「兵法の道理」を伝えん 後世に遺したもの
第4章 『五輪書』の思想
終章 「道」の思想の中で 「常に兵法の道をはなれず」
宮本武蔵関係略年表
宮本武蔵関係資料
あとがき
虚実の多いというより、虚が多い宮本武蔵。何しろ吉川英治の宮本武蔵像が強すぎる。
この本は資料を丹念に漁って、宮本武蔵の実像に迫ろうとする。ここに描かれる武藏は極めて合理的な考えの持ち主。たとえば「型」にこだわらない。相手の力量をきちんと把握し、さらには戦う場所・時国などのまわりの条件により、柔軟に戦い方は変えなくてはならないと教える。武蔵自身、50代以降においては、「枕のおさへ」(先々の先)をとることによって、相手にまったく技を出させずに悠々と追い込んで勝っていたという。
また、士農工商の身分にもこだわらない。たまたま自分は兵法者というだけということ。すべての道(を極めること)は同じと考える。
60数回の命をかけた試合にすべて勝ち、さらには大阪夏の陣、島原の乱にも参陣した武藏にとっては、実戦経験もなくいろいろな型とその遵守だけの諸流派、あるいはもったいぶったその奥義(二天流を嗣いだ者でさえ五輪書を、「皆仮名にて無用の長文言のみ」という者さえ現れる)、さらには「葉隠」の「武士道といふは、死ぬことと見つけたり」などちゃんちゃらおかしかっただろう。だが、時代の流れはそうではなかった。
ただ、二刀流は重い二刀を自由自在に使えなくては意味がないので、それだけの体力がある者でないとダメなことも明白だと思う。
2009年1月記