素数ゼミの謎 吉村仁著、石森愛彦絵 文藝春秋
ISBN4-16-367230-3 1,429円 2005年7月 2005年11月第5刷
目次
1章 アメリカの奇妙なセミ
2章 小さいセミの秘密
3章 セミの歴史を追って
4章 素数ゼミの登場
5章 そして、現代へ
長い旅の末に
終わりに 「進化」ってなんだろう
先日(2007年8月12日)のNHK総合の「ダーウィンが行く」でアメリカの17年ゼミが放映された。そこでの、13年ゼミと17年ゼミがいる説明が納得できなかったので、「理科と教育のML」に投げたら、この本を紹介されたので読んでみた。
私の疑問は、(1)最小公倍数が大きくなった方が交雑が起きにくい点について、片方が17年なら、もう片方は13年よりも大きければ最小公倍数は13年と17年のものより大きくなるのになぜ13年になったのか、(2)素数がいいとしてなぜ11年や19年はなかったのか、そもそも汎地球的な氷期がセミの幼虫時代を長くしたのなら、(3)アメリカ以外でも長い幼虫時代を送るセミが登場してもいいだろいうというものです。
(1)については、14年ゼミ〜18年ゼミ、12年ゼミ〜15年ゼミがいたとして、それぞれの周期を持つセミが同時に現れる回数(1000年間で)の表があり、やはり素数が宥利と説明されています。
ただ、NHKであったような13年、17年の直接交雑ではなく、(2)と関連して、比較的北では17年ゼミ、南では13年ゼミという分布になっているという説明もあります。
まあ、これはある程度推察がついていました。
(2)はかつての氷期のとき、地中温度も下がって生育速度が遅くなった、より寒冷な北の方では17年(19年では長すぎる)、より南では13年(11年では短すぎる)という説明です。
ここはきちんと実験的・観察的検証ができにくいと思います。17年と19年で根本的な差があるとは思えないし、氷期が終わって地中温度がかつてのようになれば13年ではなく11年と短くなっても良さそうだし。もっともこれは一度13年で固定されると、環境が変わってもそれが維持されるという説明です。一方では温度が低くなると長くなる、温度が上がっても戻らないといっているわけで、ここも本当は検証必要です。
(3)のアメリカだけという点については、アメリカには寒冷な時代でも比較的暖かなレフュージア(待避地)があり、セミ(やほかの動植物)が生き延びることができたが、ヨーロッパなどではそうした場所がなかったという説明です。ここはさらなる検証が必要です。セミ以外もきちんと調べないと。
ほかに、一度に狭い地域で大量に羽化すると、捕食者の圧力も相対的に減る(食べきれない)という効果もあるという説明もなされています。
全体に結果がうまく説明できるとそれでよしとしがちですが、もう少しいろいろな角度からの検討も必要な気もします。
なお、17年ゼミといっても、それはある地域での発生の周期が17年で、アメリカ全体では発生時期がずれた12グループが存在していること、でも13年ゼミは3グループしかないこと(アメリカ中でも13年ゼミが見られない期間が長い)ということもかかれている。
この本は難しい漢字にはルビが振ってあり、イラストも優しげなので、小学校高学年くらいから読めると思う。
2007年8月記