日本領サイパン島の1万日

日本領サイパン島の1万日 野村進 岩波書店
ISBN4-00-024238-5 2,000円 2005年8月

目次
プロローグ
第1章 漂着
第2章 獣の島
第3章 南洋成金
第4章 南洋の東京
第5章 北ガラパン二丁目大通り
第6章 南村第一農場
第7章 海の生命線
第8章 軍島
第9章 戦禍
第10章 収容所
エピローグ
証言者及び取材協力者
主な参考文献・資料
あとがき

 収容所で起きた「勝ち組」による「負け組」主要メンバーの殺害事件から始まり、サイパンに漂着して辛酸をなめ、また山あり谷ありの人生を送った山口百次郎一家、サイパンに移住してきた石山万太郎や子どもの正太郎一家の軌跡を追う。最後にまたテニアン島で起きた殺人事件に終わる。

 成功者山口百次郎一家は運良く山形に帰省していたため、テニアン島(サイパンの南の島)に残っていた娘婿山崎桂男(元共産党の活動家、外国語に堪能だったため収容所で通訳、これもあって「勝ち組」に殺される)以外は生還する。

 苦労に苦労を重ねてようやくサイパンで生活の基盤を得た石山万太郎一家。1944年6月に始まるアメリカ軍の猛攻の末、7月には北端のマッピ岬(バンザイクリフ)で民間人の大量自決。その間石山一家は別なところに逃げ迷っていた。その過程でどんどん失われる家族。収容所でも辛酸。

 バンザイクリフのイメージから、サイパン在住の民間人のほとんども死亡したと思いこんでいたが、24000人近い人口(日本人)の約半分が犠牲になったらしい。これは沖縄本島の民間人犠牲者の割合を超える。ほかに、現地のチャモロ人、朝鮮人、カナカ人も大勢が亡くなっている。

 私的な思い出としては、私たち甥っ子・姪っ子にすごく優しく甘い、人格者でもある叔父が一度だけ怒った姿を見たことがある。それは姪(私の従姉妹)が新婚旅行でサイパンに行ったときだ。「あれだけは許せない、戦友がたくさん死んだところだ。」といっていた。彼は長い軍役の間中、南方戦線を転戦させられた「歴戦の勇士」だったのだ。

2006年1月記

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