成長の限界 人類の選択

成長の限界 人類の選択 ドネラ・H・メドウズ デニス・L・メドウズ ヨルゲン・ランダース
枝廣淳子訳 ダイヤモンド社
ISBN4-478-87105-1 2005年3月 2,400円

目次
訳者まえがき
序文
第1章 地球を破滅に導く人類の「行き過ぎ」
            「行き過ぎ」を招く3つの要因
            地球をシステムとしてとらえる
            「可能な未来」への進路
第2章 経済に埋め込まれた危機級数的成長の原動力
            倍増を続ける幾何級数的成長の行方
            幾何級数的成長の原動力となる人口と資本
            350年前、世界の人口は5億人だった
            人口が増え、貧困が増し、人口がさらに増える
第3章 地球の再生が不可能になる供給源と吸収源の危機
            食糧・土壌・水・森林の限界
            再生不可能な供給源は何か
            汚染と廃棄物の吸収源は何か
            限界を超えて
            人類に突きつけられた恐ろしい現実
第4章 成長のダイナミクスを知るワールド3の特徴
            「現実の世界」をモデル化する
            地球の行動パターンを理解する
            ワールド3の構造
            成長するシステムの「限界」と「限界なし」
            行きすぎて振り子が振れる
            2つの可能なシナリオ
            なぜ、行きすぎて崩壊するのか
第5章 オゾン層の物語に学ぶ限界を超えてから引き返す知恵
            成長−世界でもっとも役に立つ化合物
            限界−オゾン層の破壊
            オゾン層破壊の最初のシグナル
            遅れ−抵抗する産業界
            限界を超えた地球−オゾンホールの発見
            国際政治に突きつけられた「動かぬ証拠」
            オゾン層を守れ
            オゾン層の物語から得られる教訓
第6章 技術と市場は行きすぎに対応できるのか
            「現実の世界」における技術と市場
            技術の力で限界を引き延ばすことはできるか
            「現実の世界」のシナリオの限界
            なぜ、技術や市場だけでは行きすぎを回復できないのか
            市場の不完全性の一例−石油市場の変動
            そして漁場の崩壊
第7章 持続可能なシステムへ思考と行動をどう変えるか
            人口増加をシミュレーションで考える
            環境への負荷を減らす成長の抑制と技術の改善
            20年という時間がもたらす違い
            持続可能な物質消費のレベル
            持続可能な社会をどうつくるか
第8章 いま、私たちができること 持続可能性への5つのツール
            農業革命と産業革命の歴史に学ぶ
            次なる革命−持続可能性革命の必然性
            ビジョンを描くこと
            ネットワークをつくること
            真実を語ること
            学ぶこと
            慈しむこと
付章1 ワールド3からワールド3−03への変換
付章2 生活の豊かさ指数と人類のエコロジカル・フットプリント
原注
索引
訳者あとがき

 1972年に出版された「成長の限界」(同じ著者、ダイヤモンド社、650円)の、2回目の全面改訂版ともいえる本。著者たちの年齢はわからないが、すでに相当な高齢になっている? じっさい、ドネラ・H・メドウズは2002年に亡くなっている。しかし、彼らはまだ「成長の限界」の40年後になる2012年にも本を出すという。

 「成長の限界」にはいろいろな批判があった。だが、人類の未来を「見える」形で表し、警告を発した意義は大きいのではないか(※1)。今回も、シナリオ0からシナリオ10までを提示している。著者たちの間では若干のニュアンスが違いがあるそうだが、基本的には楽観的で、人類は危機を認識できれば(タイムラグは生じるが)、その危機は技術開発と価値観の転換で回避できるというのが全体を流れる姿勢である。すなわちまだ「行きすぎ」の段階で、戻ることは可能だという考えである。

 従来からある、こうした問題に対しコンピュータ・シミュレーションは有効かとか、あるいはこんなことはいちいちシミュレーションするまでもなくわかりきったことだから、それよりもどうやってその危機を回避するのか、その具体策を考える方が重要だという批判にも答えようとしている。だがやはり、「入手可能な再生不可能な資源がより多く、汚染除去、土地の収穫率改善、土地浸食軽減、そして資源の効率改善の技術」(シナリオ6)に加え、「2002年から人口と工業生産を安定させる」(シナリオ9)といわれても、ではどうやって?という疑問が出るのは当然だろう。

 もう一つの批判、いわゆる南北問題(貧富の格差)が考慮されていないという点については、新しくなったコンピュータ・モデル(※2)の中には取り込まれておらず、本文の中で扱われている。これとも関連するが、「持続可能な社会」のイメージもつかみにくい。「現在の世界が成長を妨げられたときに…」との違いが明確でない。

 しかし、この本を全体で主張している人類のエコロジカル・フットプリント(自然・地球環境に対するダメージ)をできるだけ減らしていこうという姿勢には、反対できるわけはない。たしかに、具体策は抽象的な(というそもそも矛盾)第8章を考えるしかないか。

※1 大学の学部生のころ、地球物理関係(地震、地球物理(シミュレーション、超高圧)の合同勉強会があり、大学院生から教授までが今自分が何を研究しようとしているかの報告・討論会があった。普段はそこに出てこなかった某研究室の教授がいきなり登場して、いま国連関係の仕事でこういうことをやっていると「世界モデル」を紹介し、人類の未来のシミュレーションを示した。おもしろそうな研究だなあと思ったが、結局私はその研究室はもちろん、大学院にも進学しなかった(一応形としては行く予定ではあった)。だから、就職してから「成長の限界」を読んだことになる。ああ、これがそれかという感じであった。この本はA5判でで200ページ、今度の本はB5判で400ページにもなる。

※2 「成長の限界」のときは、1つのシナリオの計算は大型コンピュータで10分〜15分、原稿は電動タイプライター、グラフは手で書いたという。この本を書いたときは、1つのシナリオの計算はラップトップ・コンピュータで4秒だそうだ。

2005年5月記

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