ペンギンの憂鬱 アンドレイ・クルコフ 沼野恭子訳 新潮社
ISBN4-10-590041-2 2,000円 2004年9月
〔あらすじ〕
ウクライナの首都キエフに住む売れない短編作家ヴィクトルは、恋人にも去られ、資金難で閉鎖される動物園から引き取った心臓を患い憂鬱症のペンギン・ミーシャと暮らしている。売り込みに行った新聞社から断られるが、後日、生きている人の追悼文をあらかじめ用意しておく(「十字架」を書く)という仕事を与えれられる。
引き受けてみると意外とおもしろい。資料としてあたえられるその人の裏面も見える。編集長の紹介ということで訪れた<ペンギンじゃないミーシャ>から、友人チェカリーンの追悼文を頼まれ、膨大な報奨金をもらう。
地方都市ハリコフに「特派員」に会うために出張することになる。留守の間警官のセルゲイにミーシャの世話を頼んだことから仲良くなる。しかし、会う予定だった特派員が殺され、自分の追悼記事が実際に記事になった頃から、ヴィクトルのまわりにはおかしなことが起こり始める。
<ペンギンじゃないミーシャ>はほかにも仕事を持ってくるようになる。おまけに、娘のソーニャを預けて姿を消してしまう。それに、鍵をかけてあるはずの自分の部屋に誰かが自由で出入りしているようだ。
編集長からは少し姿を隠すようにいわれる。セルゲイの別荘に隠れることにする。ここでも事件が起こる。事件を見に行ったヴィクトルは、ペンギンを飼っていることを怪しい二人組に見られてしまう。別荘でクリスマスを迎えた彼らは、ソーニャの父<ペンギンじゃないミーシャ>が娘においていったのは大金だと知った。
キエフに戻った彼は、自分をねらっていた若者たちが殺されたことを編集長から知らされる。そして今度は、<ペンギンじゃないミーシャ>のライバル・チェカリーンから、<ペンギンじゃないミーシャ>が殺されたので、自分がソーニャを引き取りにきたといわれるが、それを断る。
セルゲイは高給に惹かれてモスクワに行ってしまう。ヴィクトルはセルゲイの姪ニーナにソーニャの面倒を見てもらうことにする。今度は編集長のみが危なくなったようだ。編集長に頼まれて新聞社に書類を取りに行ったヴィクトルは、自分の書いた「十字架」が10位先の日付で決済されているのを見てしまう。
かつてペンギンの飼育係の老人にミーシャのことを聞いていたのだが、その老人も死んでしまう。身寄りのない老人の死後の段取りを決めることなどで疲れたヴィクトルは、ニーナと深い仲になってしまう。老人の葬儀に時に、ほかに葬儀をしていたマフィアにミーシャを見られてしまう。その一人は、セルゲイの別荘で事件に時に知った者・リーシャだった。
ペンギン飼育係の遺言、すべてを燃やしてくれ、を実行する(彼が住んでいたアパートに放火する)。
リーシャからは、葬儀があるたびにペンギンを頼まれるようになる。もちろん報酬は莫大。葬儀に何回も出席したミーシャは風邪を引いてしまう。ミーシャを直すためには膨大な費用、そればかりか心臓(人間の子供の!)を移植しなくてはならいことを知る。ペンギンのことを知ったリーシャはすべて片を付けてくれる。
ヴィクトルは南極大陸委員会にお金を寄付することにする。そしてミーシャを南極に送り返してもらうことにする。そのころ、モスクワのセルゲイも職務遂行中に死んでしまった知らせが届く。
ニーナを通じて、ヴィクトルのことをかぎ回っている太っちょ男がいることを知る。彼の家に押し入ったヴィクトルは、太っちょ男はヴィクトルを同じ仕事をしていて、ヴィクトルの追悼文を書いていたのだ。そこで、彼は自分の仕事を意味を知ることになる。彼は「国家安全保障『グループA』」の片棒を克いていたらしい。『グループA』は、清廉潔白ではないが裁判にかけられそうもないVIPを「処刑」していたのだ。また、やはりリーシャたちはマフィアだったことも確認する。
ニーナにはソーニャを頼む置き手紙を残し、カジノに逃避する。そこでは毎晩勝ち続ける。ペンギンを引き取りに行けば殺されることはわかっているので、いきなり飛行機工場に行って、ペンギンの代わりに南極行きの飛行機に乗り込むことにする。
〔感想〕 ソ連崩壊後の世の中ならあり得るかなという筋? しがない警官であるセルゲイが当たり前のように別荘(ダーチャ)を持っていることも驚き。ふつうのことらしいが。でも、小説全体はおもしろかった。
2004年11月記