千年王国の惨劇

千年王国の惨劇 ミュンスター再洗礼派王国目撃録
ハインリヒ・グレシュベック C.A.コルネリウス 倉塚平訳
平凡社、2002年8月9日 ISBN4-582-47345-8 3,400円

目次
再洗礼派の登場
運命の金曜日
変革の千年王国
市民の軍隊
一夫多妻制の導入
デッチ上げられた王制
幻想の千年王国
終わりのはじまり
崩壊する千年王国

 ヨーロッパの宗教改革の時代、プロテスタントの一派、再洗礼派。その中のカルト集団に占拠された(立てこもった)ドイツ・ミュンスター市の市民(「恐怖のために服従させられ強制に従っている者たち」の一人)の目撃談。

 筆者(語り手)はふつうの家具職親方だし、根っからの再洗礼派でもない(傭兵としての雇用を求めたというのが真相らしい、もちろんもともとの市民だし、母親は市内いたのだが)、再洗礼派が占拠したときの中枢にもいないので、(解説がないと)全体は俯瞰できていない。

 1年4ヶ月(1534年2月末〜1535年6月)にわたって、周りを包囲されたミュンスターで継続した「千年王国」、その中では既存の制度を打破し、全面的な改革(一夫多妻、貨幣の廃止など)が行われた。が、現実は現在のカルト教団が起こした諸事件にも通じる悲惨な結果。

 語り手は、ミュンスター落城寸前にかろうじて市を脱出し、その防御の弱点を包囲軍に教えたのだが、十分な報酬を得ることができず(一緒に脱出した者に比べて)、その不満からこの手記を残したという(字を書ける人(複数?)に頼んで)。でも、一時は再洗礼派の中にいた自分を防衛しなくてはならないという微妙な立場もある。

 中世ヨーロッパや宗教改革の知識がないのであまりよくわからないが、今日のカルト教団(カルト国も?)の問題に通じる点があることくらいはわかる。カルトに惹かれる人がいつの世にもいるかは難しい問題である。だがしかし、「飢え」が始まれば「思想」は意味がなくなり、崩壊への道へと進む。

2003年2月記

戻る  home