光ってみえるもの、あれは

光ってみえるもの、あれは 川上弘美 中央公論社
ISBN4-12-003442-9 1,500円 

目次
すべて世はこともなし
夜になると鮭は…
木のぼりをして
結構な家族
魚の族(やから)
一個半個
家は薔薇の花で
不思議なる顔
北の海
山中問答
偶作
埴生の宿

登場人物
江戸翠 主人公 高校生の男の子 なんでも「ふつう」と思ってしまう。
江戸愛子 翠の母 みんな名前で呼ぶ家族、フリーライター。
江戸匡子(まさこ) 愛子の母 翠、愛子と3人で暮らしている。はっきりとものをいう。
大鳥康郎 遺伝子上の父 ただの知り合い(愛子)、くされ縁(大島)、江戸家に自由に出入りする。

平山水絵 翠のガールフレンド(セックスまでもしている仲)、はっきりしない翠にいらつく、でも翠にとっては不可解な面も。
花田 翠の親友 休み時間はいつも3人で屋上で過ごす。

佐藤健太郎 愛子さんの現在の恋人、編集者。
北川(キタガーくん) 翠たちの国語の先生、大鳥さんとは馬が合う。

あらすじ
 無感動な翠は「ふつう」の生活を送っているが、母、祖母やまわりの人たちも「ふつう」ではない。翠は昼休みは屋上で、平山水絵、花田とのんびりと過ごす。ときどき家にやってくる大鳥さんは、なぜかまわりの女性から優しくされる。平山水絵も興味を示す。

 その頃母は、新しい恋人佐藤健太郎とよくデート。渋谷のホテル街から出てきたところで翠と会っても悪びれない。佐藤さんは家にも訪れる。その間も、謎めいた水絵の問いにうまく答えられない翠。

 急に花田が女装したいといいだす。女物の服を探し二人で結局山手線を一周してしまう。翠は大鳥さんに連れられて山手線を三周したことを思い出す。花田が女装したいのは、自分の存在を「確認」(シミシミ状態から抜けたい)したいためであった。花田は父の故郷、平戸諸島の小値賀島の話をする。この日はラーメンを食べて別れる。

 小学校の頃、父のいない翠のために父親授業参観日の内容を「教育的配慮」した学校に対し、江戸家では「江戸家の日」を制定した。この日の江戸家はいろいろな儀式を行い、ささやかな散財をする。この日、突然大鳥さんや平山水絵もやってくる。平山水絵は翠に本当に自分のことが好きなのかを聞くが、翠はうまく答えられない。

 結局花田の女装は、平山水絵に量販店を教えてもらって手に入れる。翠は大鳥さんに、結局愛子と結婚しなかった理由を聞き出す。翠は嫌だった母とのダブルデートをする羽目になる。

 花田はセーラ服を着て登校する。4時間目の国語のキタガーくんだけが何となく理解を示す。

 相変わらず翠は平山水絵にうまく対応できない。同級生の菊島蘭は翠に好意を示す。花田は突然に学校を休む。携帯で理由を聞くと、深夜、道路で意味もない横断歩道をかいている男を見て、女装がばかばかしくなったという。授業中に突然、大鳥さんがお金を借りに来る。長崎から船に乗って行く五島列島に蒸発した知人を連れ戻しに行くという。その場はキタガーくんがうまく収める。水絵は翠にしばらく冷却期間をおこうという。

 バイトで貯めたお金を使って、夏休みに翠と花田は小値賀島に渡った。キタガーくんも大鳥さんを訪ねて同じ平戸諸島の福江島に渡っている。翠と花田はのんびりと過ごす。花田はインポになっていることを告白する。二人は、ときどきたずねる花田の遠縁のおばさんに聞いた、今では無人島になっている野崎島の沖神嶋神社に行くことにする。

 島に渡る船は一日に二便しかない。朝の船に乗って二人は出かける。島には野生の鹿がいた。沖神嶋神社への道は荒れていて、雷雨にも見舞われ、雷雨をやり過ごす間、花田は翠に終業式の日に水絵とセックス寸前まで行ったことを告白する。

 結局、頂上の神社で夜を過ごす羽目になる。蛭や虫、マムシもやってくる。下山の途中、翠は崖から滑り落ちる。翠は足を折っていた。大鳥さんやキタガーくんもやってくる。

 二日後、母もやってくる。大鳥さんは自分と暮らすことを提案する。翠は母や大鳥さんに自分のことが好きか(平山水絵のように)聞く。翠と花田は大鳥さんやキタガーくんを訪ねる。4人で嵯峨島の祭りを見に行く。オーモンデーの踊りを見た翠や花田は何かを感じる。

 福江島の大鳥さんが借りている部屋に移った翠のところに、平山水絵がたずねてくる。何となく二人の心が通う。

 結局翠と大鳥さんは、小値賀島の廃屋になりかけの家を借り、「ドロップアウトした父子」として一緒に暮らすことになる。愛子、匡子たちとの家族の絆も再確認される。

感想
 やるせない青春小説。

2003年11月記

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