全地球史解読

全地球史解読
熊澤峰夫・伊藤孝士・吉田茂生編 東京大学出版会
ISBN4-13-060741-3 7,400円 2002年10月

まえがき
第1章 全地球史の考え方
第2章 全地球史解読の技術
第3章 地球の気候に影響を与える宇宙のリズム
第4章 地球表層環境の変遷
第5章 地球深部ダイナミクス
第6章 生命と地球の共進化
第7章 むすび−われわれはどこに行くのか
定冠詞の付く全地球史解読
あとがきにかえて−プルーム考
索引

 この本は平成7年〜平成9年(1977年〜1999年)の、文部省科学研究費(科研費)重点領域研究「全地球史解読」の成果をまとめたものである。本来は、全3巻本になる予定だったらしい。よくある話しで、プロジェクトが終わると熱が冷め、予定した原稿が集まらなかったという。でも、1/3は集まったので、集まったもだけでもとまとめたのが本書である。まず編者たちの努力を評価したい。なにしろ、1巻本になってしまったといっても、500ページを超える分量である(お値段も相当なもの)。

 第3章では、いわゆるミランコビッチ説の検討と、地球−月系の研究の成果が語られる。前者については、地球の離心率の10万年周期の変動は、日射量の変動にはあまり影響を与えておらず、第4紀の氷床の変化の周期10万年とたまたま合ってしまったと強調されている。

 第4章の最終節は「スノーボールアース仮説」の検証である。原生代後期7億6千万年前〜7億年前、さらに6億年前に全球凍結といってもいいくらい、赤道近くまで氷河がおおっていたという説である。どうも、これらはかなり正しいらしいということになってきた。だが、そうであるとすると、今度はその状態からなぜもとの状態に戻ることができるのか、また生物の進化との関係はどうかなどが問題点として浮かんでくる。

 第5章では、マントル対流の発展、また内核の成長、さらにはマントルと核の関係、そして地球磁場についても述べられる。

 第6章で興味深いのは、なんといっても生物の大絶滅の話しだろう。K/T境界(白亜紀−第3紀境界)は、いん石衝突説が説得力を持っているようだが、それ以上の大絶滅だったというP/T境界(ペルム紀−三畳紀)はどうだろう。ここでは磯崎氏が「プルームの冬説」を提出する。

 「全地球史解読」プロジェクトが終わって、それぞれ多忙な中、またプロジェクト参加者の意見の違いも顕在化した中(それは下の岩波本の出版の遅れや、上の本のあとがきで垣間見ることができる)、こうした本をまとめること自体が大変だったと思う。なお、このプロジェクトの成果をまとめた本としては他に、「生きている地球の新しい見方−地球・生命・環境の共進化」(グバプロ、平成11年11月10月、ISBN4-906374-87-8、3,000円)、「プルームテクトニクスと全地球史解読」(熊沢峰夫・丸山茂徳編、岩波、2002年4月、ISBN4-00-005945-9、4,600円)がある。とくに、前者は1999年10月に行われた公開シンポジウムをまとめたもので、一般の人にもわかりやすいものとなっている。ちなみに、このシンポジウムはノーベル賞受賞寸前の野依良治氏が組織委員長をしていた。

2002年12月記

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