フェルマータ
ニコルソン・べーカー、岸本佐和子訳 白水社
2,200円 1995年6月 ISBN:4-560-04577-1
「時間を止める超能力を、もっぱら女性の服を脱がすことに捧げた男の自伝。話題作『もしもし』の著者がまたまた放つH度全開の大人のファンタジー。全米ベストセラー。」という紹介文。
出版時に何となく購入しておいたのだが、7年間も積ん読になっていたのを、最近ようやく読んだ。意外とおもしろかった。主人公は時間を任意に止めることができ(完全に任意ではなく、時間を止めることができる時期とできない時期がある、時間を止めるスイッチを何にするかも違う)、その状態をフェルマータとか襞(フォールド)などといっている。
そして、その超能力をもっぱら女性の服を脱がすこと、あるいは時間を止めておいて女性の気を引くようなことをしておくなどに使うわけである。それが、300ページ以上のこの本の中で延々と続く仰天小説。最後に「どんでん返し」はあるが。
おもしろいのは、時間が止まっているときのまわりの状態である。「海はペクチン状に凝固し」とか、雨は「体に当たるのは通り道にある雨粒だけ」とか、「空気中の分子が静止するため…ときどき空気をかき回さなければ息が苦しくなる。」とか、「「路上が止まった車で埋めつくされるために、車の運転は事実上不可能」など、妙に緻密で臨場感のある描写がある。
だが、そもそも時間が止まったら光も止まって、女性の裸も見ることができない? たしかにこの小説でも、「ポラロイド写真は緑とオレンジ色がうまく出ない」となっているが… 時間を止めても自分の体の中だけは時間が動いているわけだけど、自分に関係するところもうまく動くのかな? 不思議?
ちょっとべーカーの他の本も読みたくなった。
なお、このハードカバー版は絶版中だが、白水社uブックス(ISBN4560071241)として出ているので、そちらで入手可能。
2002年8月記