専制君主ニュートン 抑圧された科学的発見
D.H.クラーク、S.P.H.クラーク 伊理由美訳 岩波書店
2,700円 ISBN:4-00-006271-9
はしがき
謝辞
第1章 真理への複雑な道
執念深い復讐
権力、策略、かわいらしい姪
カンタベリー物語
染色と生計
第2章 敵と味方
海で途方に暮れ
月に魅了され
月から造幣局へ
新たなる月
第3章 ケンブリッジの人脈
巡礼の道
三位一体
競争相手となったコーツ
電気への進路変更
巡礼の帰還
第4章 天空の真実への捧げ物
偏見、誇り、権力
計画は完全−進め方が不完全
不運と不信
第5章 戦いの大詰め
権力の利用と悪用
太陽崇拝
ロンドンは招く
フラムスチードの最期の動き
グレーの次の動き
ニュートンの最期の動き
第6章 一目置かれ認められ
電気実験
ついに認知される
電気通信の成長
最期の日々
科学者への追悼文
訳者あとがき
参考図書
ニュートンのライバルは、フックやライプニッツだけではなかった。国立グリニッジ天文台初代台長のフラムスチードとその友人グレーも敵だった。フラムスチードはその精緻な観測結果を精緻な形で出版したかったのだが、月だけのデータを手に入れたいニュートンは、あらゆる策略を使って自分が必要な部分だけの出版を模索する。フラムスチードの友人グレーは染色職人だったが、誠実に友人フラムスチードを手伝う。グレーは後に電気通信の基礎となる実験を行う。
ニュートンの謙虚さを示す言葉としてよく揚げられる、「私にもっと遠くが見えたとしたら、巨人たちの肩の上に乗ったからです。」も、「やせて、腰が曲がって、醜い男」(フック)を皮肉ったものだという見方もあるということも示唆している。
ニュートンは自然科学史上希にみる天才であることに間違いはないだろうが、だからといって人格も高潔だったということにならない、という当たり前のことを示した本。でも、ニュートンほどの「偉人」になると、いろいろな面からあれこれと評価されてちょっと可哀想。もういいやという気にもなる。
2002年10月記