このページの目次 | ||
第3章 太陽(1) | ||
1.太陽までの距離と大きさ・質量 | ||
a.太陽までの距離と天文単位 | ||
b.太陽の大きさ(半径) | ||
c.太陽の質量 | ||
用語と補足説明 | ||
参考になるサイト |
a. 太陽までの距離と天文単位
太陽までの距離の測定は、月までの距離の測定とは違い、距離が大きいので地球上でとることのできる基線では短すぎて三角測量では求められないし(古代ギリシャのアリスタルコスは巧妙な方法で太陽までの距離を測定した)、レーザ光線も反射してくれないのでその反射を利用するというようなこともできない。そこで昔は、地球の近づく小惑星までの距離を三角測量で計り、それからケプラーの第3法則を用いて太陽までの距離を求めていた。現在では、金星までの距離をレーダーで測定して、ケプラーの第3法則を用いて太陽までの距離を求めている。
こうして求めた太陽までの距離は1.496×1011m(正確には、1.49597870×1011m、約1億5000万km)である。ただし、地球の公転軌道が完全な円ではないので(だ円である)、この距離は平均値である。この地球−太陽間の距離は地球半径の約23500倍である。
地球−太陽間の平均距離(1.496×1011m)を1AU(天文単位)とする。天文単位は太陽系程度の空間の距離を測るのには便利な単位である。なお、AUは astronomical unit の略である。
b. 太陽の大きさ(半径)
地球−太陽間の距離は微妙に変化するが、太陽の視半径の平均は15′59″64である。この大きさは月の平均の視半径15′32″58とほとんど同じであるがごくわずかに大きい。つまり、地球−月、地球−太陽の平均距離の状態で、太陽−月-地球と一直線上に並んでも、月が太陽を全部隠す皆既日食にはならないことになる。
月の半径を求めたのと同じように、15′59″58をラジアン(rad)に直した値4.652×10-3(rd)から、tan(15′59″58)の値がわかり(4.652×10-3)、これと地球-太陽間の平均距離(1.496×1011m)から、太陽の半径を求めると6.960×108mとなる。これは地球半径の約109倍である。
※ 多摩川中流二ヶ領上河原堰堤の左岸(調布市側)からダイヤモンド富士を見ると、太陽の視直径(見かけの大きさ)が富士山の火口の視直径と同じだった。これを利用して、太陽の直径を有効数字2桁で求めてみた(2019年11月9日)。
富士山火口の幅をgoogle earthで測ってみると7.6×10-1 kmだった。また観測者の位置から富士山火口までの距離もgoogle earthで測ってみると、8.1×10 kmだった。
地球と太陽の距離は1.5×10^8kmなので、太陽の直径は7.6××10-1×(1.5×10^8÷8.1×10)= 1.4×10^6 (km)となった。つまり半径は7.0×10^5 kmとなる。
実際の太陽の半径も7.0×10^5 kmなので(上の6.960×108mを有効数字2桁、長さの単位をkmとすると、7.0×10^5 kmとなる)、太陽の半径が求められたことになる。
※ 地球の公転軌道が楕円のために、地球と太陽の距離は少し変化するが、軌道の離心率が0.0167なので、地球−太陽の距離の変化は上のような議論では無視できる。
c. 太陽の質量
太陽の質量も、月の質量の求め方と同様にケプラーの第3法則を用いて求める。こうして求められた太陽の質量は、1.989×1030kg(約2.0×1030kg)である。地球の質量が5.974×1024kgなので、太陽の質量は地球の質量の33万倍ということになる。
だが、半径が約100倍ということは、体積では100万倍(半径を109倍とすると130万倍)になる。それなのに質量が33万倍ということは、太陽の密度は地球よりかなり小さいということである。実際、地球の密度5.52×103kg・m-3に対し、太陽の密度は1.41×103kg・m-3しかない。この値は月の密度3.34×103kg・m-3よりも小さい。
これは、地球が金属(外核・内核)と岩石(マントルと地殻)、月がおもに岩石できているのとは違い、太陽は主にガスでできているからである。太陽の主成分(90%程度)は水素であり、ついでヘリウムが10%程度、この二つで99.9%を占める。残りはごくわずかであるが、地球上にあるあらゆる元素を含んでいる。
太陽表面からの第2宇宙速度(脱出速度)は、620km・s-1にもなる。
1AU(天文単位):1天文単位の本来の定義は上に書いたものであったが、現在では万有引力定数と太陽質量をもとにして、ケプラーの第3法則を用いた値になっている。このとき、地球−太陽の(平均)距離は、1.000000031AUとなる。
皆既日食:太陽-月-地球が一直線上に並んだとき、月の見かけの大きさ(視半径)の方が、太陽の見かけの大きさ(視半径)よりも大きければ太陽を全部隠す皆既食(皆既日食)となる。月の見かけの大きさ(視半径)の方が、太陽の見かけの大きさ(視半径)よりも小さければ、月のまわりから太陽が環のようにはみ出す金環食(金環日食)になる。
地球と月の平均距離は約38.4万kmであるが、月の公転軌道の離心率が0.0549なので、その値は36.3万km〜40.5万kmの間で変化する。一方、地球と太陽の平均距離は1.496万kmだが、公転軌道の離心率は0.0167なので1.47億km〜1.52億kmの間で変化する。だから、月の視半径は14′44″〜16′27″の間で変化する。また、太陽の視半径は15′44″〜16′16″の間で変化する。
月の影(本影)が地球に届くと皆既食:富山市天文台 http://www.tsm.toyama.toyama.jp/tao/index-j.htm |
月の影(本影)が地球に届かないときは金環食:富山市天文台 http://www.tsm.toyama.toyama.jp/tao/index-j.htm |
東京では皆既食は2035年9月2日に見ることができる。他に詳しい予想は、下の図、または北海道大学計算機センター内の日食のデータベース参照。
2012年5月21日(下の図は世界標準での日付なので5月20日になっている)の金環日食写真はPisasawebに投稿した静止画と、youtubeに投稿した動画を参照。
日食中心線図(1997年3月27日〜2016年9月1日、2030年6月1日、2035年9月2日も)
CD-ROM版理科年表2004より
ヘリウム:ヘリウムという元素は、地球上より早く太陽で発見された(1861年)。皆既日食のときのコロナ観測で、それまでに知られていない輝線(発光スペクトル)が見つけられたのである。その名は太陽を意味するヘリオスに由来する。原子核に陽子2個、中性子が1個〜2個、外側を回っている電子は2個という、水素に次いで構造が簡単な元素である。
ヘリウムは地球上ではごくわずかにしか存在しない。地球上で発見されたのは1895年のことである。地球の重力では、水素やヘリウムという軽いガスを引き留めておくほど強くない。ただし、水素は水や他の化合物として大量に地球に残ったが、不活性ガス(化学反応をあまり起こさない=化合物をほとんどつくらない)であるヘリウムはガスとしてしか存在しないので、地球の初期にあったヘリウムはほとんど宇宙に逃げてしまったのである。
だから、ヘリウムは大気中には5ppm(5×10-4%、1万分の5%)程度しか含まれていない。そこで、ヘリウムはヘリウムを多く含む油田からのガス中から採集する。アメリカの油田ガスにはヘリウムを多く含むものがあり、なかでも多いのが、テキサスのPanhandle-Hugotonガス田で、ヘリウムを1.86%含んでいる。ここで世界のヘリウムの生産量のほとんどをまかなっている。他にはアルジェリアの油田からもわずかに採集されている。こうしたヘリウム(の大部分)は、ウラン、トリウム、ラジウムなどの放射性同位元素の崩壊によってできたものであり、地球ができたときの初めからあったものではない。
地球上のヘリウムのうち、中性子が2個あるヘリウム4(4He)が99.9999%を占め、これが放射性同位元素の崩壊(α崩壊=ヘリウム4の原子核と同じアルファ粒子を出して、陽子と中性子が2つずつ少ない別の元素に変わる)でできたもの、残りの0.0001%がヘリウム3(3He)で、こちらは地球の初めからあったものといわれている。ヘリウム4とヘリウム3の概念図(原子とそれを構成する陽子、電子、中性子の大きさの比は正確ではない)は下を参照。
ヘリウムガスの浮力は水素ガスと遜色なく(0.93倍)、さらに水素のように燃焼・爆発をしないので、風船や飛行船に利用される。ドイツの大型飛行船ヒンデンブルグ号(客室はシャワー・トイレ付きの個室、レストランもあり、さらにはラウンジにはグランドピアノもある豪華飛行船、乗客はシートベルトいらずのゆったりとした空の旅ができた)は、1937年にニューヨーク近郊で着陸に失敗して爆発・炎上したが(乗員・乗客97名中35名死亡、生存62名)、当時のアメリカとドイツ(政権はナチスが握っていた)の緊張関係から、アメリカがドイツへのヘリウム輸出を禁じたため、ヒンデンブルグ号はやむを得ず水素を使っていたためにこうした大事故になってしまった。事故の原因については不明であるが、アルミ塗料が燃えたという説が強い(テロ説もある)。
ヒンデンブルグ号(全長245m、最大直径41m) http://www.altfrankfurt.com/ Spezial/Zeppelin/Hindenburg/Zeppelin_1936.htm |
ヒンデンブルグ号の大きさ、下はボーイング747機(ジャンボ)、 下はタイタニック号: http://www.ciderpresspottery.com/ZLA/ greatzeps/german/Hindenburg.html |
ヒンデンブルグ号のラウンジに置かれたピアノ http://www.nlhs.com/interior.htm |
ヒンデンブルグ号のレストラン http://www.altfrankfurt.com/ Spezial/Zeppelin/Hindenburg/Innenausstattung/ |
ヒンデンブルグ号のデッキ http://www.paper-dragon.com/1939/hindenburg.html |
ヒンデンブルグ号のキャビン http://www.paper-dragon.com/1939/hindenburg.html |
その他ヘリウムを極低温(ヘリウム4は2.2K、ヘリウム3は0.002K以下で、粘りけ(粘性)がなくなり“超流動”という現象を起こす。ただし、超流動になるメカニズムはヘリウム4とヘリウム3では異なる。また、液体ヘリウムの1気圧のときの沸点は4.216でK、0K(-273.16℃)でも液体のままである(ヘリウム4は25気圧以上では固体になる)。
30m以上の深い水中で使用する潜水用の空気ボンベでは、チッ素(窒素)の替わりに、チッ素よりも水(血液)に溶けにくいヘリウムを入れる。一つの理由は高圧下で血液に溶け込むチッ素は、脳に対して麻酔作用(チッ素酔い)を及ぼすようになるので危険であること。もう一つの理由は潜水病を防止すること。潜水病とは、深い水中での高圧下で血液に溶けたチッ素が、潜水から浮上して圧力が下がると血液のなかで気泡となって毛細血管を塞ぎ、脳や抹消組織に血液が送られなくなることであり、大変に危険である。だから、チッ素酔いを起こさない、また血液に溶けにくい(潜水病を防止できる)ヘリウムにしておけば、潜水の危険性が減るのである。ただし、ヘリウムは熱伝導率が高いので、水温の低い水中での長時間の作業においては、体温の保持の問題が出てくる。
ヘリウムを吸い込んでから声を出すと声が変わり、いわゆるドナルドダックの声なる。こうした目的で(パーティグッズとして)売られているヘリウムもある。ヘリウムを吸い込むと声が高くなる(音程が高くなる)ような印象があるが、このとき音程そのものは変わっておらず、音色(倍音成分)が変わっているだけである。
不活性ガス(希ガス):原子のそれぞれの電子軌道(いくつかある)に入ることができる電子の最大数は決まっている。その一番外側の電子軌道が満員になった状態になると、その原子はきわめて反応性が低くなる。ヘリウムの場合はその電子軌道は2個で満員になってしまうため、化学的に不活性になるのである。こうした元素はヘリウムの他、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンがあり、これらをまとめて不活性ガスとか希ガスという。