第二部−3− 大気と海の科学

第8章 雨の成因

目次
1. 雲粒と雨粒
2. 雨粒への成長
a.冷たい雨(氷晶雨)
b.暖かい雨(暖雨)
用語と補足説明

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1.雲粒と雨粒

 雲粒(細かい水滴か氷の結晶)が空に浮いているように見えるのは、雲を発生させる原因となった上昇気流が吹き上げる速さよりも、雲粒の落下速度の方が遅いからである。また、雲が全体として上に吹き上げられないのは、凝結高度(雲ができ始める高さ)でつねに新しい雲粒ができているからである。

 雲粒の大きさ(直径)は、3/1000mm〜1/100mmくらい、雨粒の大きさ(直径)は、1/10mm〜5mm程度である。8mm以上の大きさの雨粒はできても、落下の途中で分裂してしまう。落下速度はだいたい直径の2乗に比例する。雲粒の落下速度はcm・s-1のオーダー、雨粒の落下速度はm・s-1のオーダーであることがわかる。一方上昇気流の速さは1m・s-1〜数m・s-1、積乱雲をつくるような激しい上昇気流では10m・s-1、あるいはそれ以上になることもある。

 落下速度の表

直径(m) 落下速度(終末速度)(m・s-1 備考
10-6 3×10-5 凝結核
2×10-6 1.2×10-4
5×10-6 7.5×10-4
10-5 3×10-3(3mm・s-1 雲粒
2×10-5 1.2×10-2(1.2cm・s-1
5×10-5 7.5×10-2(7.5cm・s-1
10-4(0.1mm) 3.0×10-1(30cm・s-1 霧雨
2×10-4(0.2mm) 8.0×10-1(80cm・s-1
5×10-4(0.5mm) 2(2m・s-1
10-3(1mm) 4(4m・s-1
2×10-3(2mm) 7(7m・s-1
5×10-3(5mm) 10(10m・s-1
10-2(1cm) 9 雹(ひょう)
2×10-2(2cm) 16
5×10-2(5cm) 33
10-1(10cm) 69

一般気象学(小倉義光、東京大学出版会、1984年)p.86の表から作成

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2.雨粒への成長

 雲粒の大きさ(直径)を1/100mm、雨粒の大きさを1mmとすると、雨粒の体積は雲粒の体積の100万倍もあることになる。つまり雲粒が雨粒になるためには、雲粒が100万個も集まらなくてはならない。

a.冷たい雨(氷晶雨)

 空気塊は上昇すると、断熱膨張により気温が下がる(このときの気温の下がり方は乾燥断熱減率)。そしてある高さで雲が発生する。上昇気流によりさらに上に吹き上げられた空気塊とその中の雲粒はさらに温度が下がり(このときは湿潤断熱減率)、やがて氷点下になる。しかし、小さな雲粒は氷点下になってもなかなか氷になれずに、過冷却の水滴として存在する。

 過冷却の水滴不安定な状態であり、何かの刺激でたちまち氷になる。例えば、それは何かの物質に触れることでもよい。このように、過冷却水が氷になるきっかけとなる物質を氷晶核という。氷晶核となりうるものは、細かい土の粒子、ゴビ砂漠などから飛来する黄砂、細かい火山灰などである。雲粒が過冷却水になるのは、凝結高度(雲ができ始める高さ)よりは高いところである。凝結高度程度の高さなら凝結核はたくさんあるが、過冷却水が存在するような高い空にはあまり氷晶核となるような物質はない

 ともかく、氷晶核に触れた過冷却の水滴(雲粒)は瞬間的に氷の結晶(氷晶)となる。すると、氷晶のまわりの不安定な過冷却の水滴は蒸発し(過冷却水の近くでの飽和水蒸気圧の方が、氷晶のまわりの飽和水蒸気圧より高いので、過冷却水は蒸発しやすい)、その水蒸気は氷晶のまわりに昇華して氷になる。こうして、氷の結晶はまわりの水滴から供給される水蒸気によってどんどんと成長する。

 そして、氷晶が大きくなり、落下速度が上昇気流の速さを上回るようになると、落下を始める。そして途中で融けて水滴となれば雨であり、氷晶のまま地表にまで落ちてくれば雪である。だいたい、地表付近の気温が3℃以下ならば、ふつうは雪になるといわれている。日本で降る雨は、ふつうはこのような上空では雪だったものが融けて水になったものであり、こうした雨を冷たい雨(氷晶雨)という。

(本当は、雨粒の形は上下方向につぶれたあんパン型をしていることが多い。)

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b.暖かい雨(暖雨)

 激しい上昇気流の中で雲粒どうしが直接衝突して雨粒の大きさに成長したり、また海塩粒子のように水滴を吸収しやすい凝結核がたくさんあると凝結した水分は直接雨粒の大きさまでに成長することもある。こうした氷晶の段階を経ないでいきなり雨粒になって降る雨を暖かい雨(暖雨)という。熱帯のスコールなどはこれである。

 もちろん、完全な冷たい雨、完全な暖かい雨というものばかりではなく、冷たい雨の中にも氷晶の段階を経ないで水滴どうしの衝突で成長した雨粒もあるだろうし、暖かい雨の中にも氷晶が成長してできた雨粒も混じっているだろう。

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用語と補足説明

雹(ひょう)直径5mm以上の氷の粒が降ってきたものを雹(ひょう)という。ときにはニワトリの卵、あるいはそれ以上の大きさのものが降ることもある。雹の断面は透明な層と不透明な層が交互に重なっている。これは、落下の途中で激しい上昇気流で再び吹き上げられ、また落下するということを繰り返して、一度融けて再び氷になったところが透明に、落下の途中で過冷却水がまわりで凍りついたところが不透明になったのである。雹を形成するような激しい上昇気流は積乱雲を発達させ、雷を伴うことが多い。

 なお、直径が5mm以下のものを“あられ(霰)”という。白色不透明であることが多い。

 また、氷晶が一度融けて雨粒になったものが、地表付近の低温層を通過するときに再び凍ったものを凍雨という。凍雨は透明であることが多い。

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雨粒の形小さい雨粒は丸い形をしている(水の表面張力による)、ある程度以上に大きくなると空気の抵抗を受けて下図のような形になる。さらに大きくなると分裂してしまう。


国土環境株式会社
http://www.bioweather.net/column/weather/contents/mame006.htm

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人工降雨雨が降りそうな雲があってもなかなか雨にならないことがある。これは上空に氷晶核となるような物質が少ないからだと考えて、氷晶核となるような物質(ヨウ化銀やドライアイスの微粒子)を雨(雪)が降りそうな雲にまいてやろうというものである。つまり、まったく雲もないようなところ、例えば砂漠に雨を降らせようというものではなく、雨(雪)が降りそうだがなかなか降ってこないでも雨(雪)が必要であるというとき、あるいは雨(雪)はある程度降ってきているがもっと降らせたいときに試みられる。

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