空間と時間のスケール

 地球や宇宙を考えるとき、とまどう、あるいは直感的に把握できないのは、その空間と時間のスケールが、われわれが日常的に体験できるものと桁がまったく違うことであろう。

 交通機関の発達した今日においても、なかなか訪れることができないところもある。こうした交通機関のなかった昔の多くの人は、自分が生まれ育った場所を中心に、歩いていくことができる範囲(数kmからせいぜい十数kmの範囲)で生活していただろう(江戸時代の日本はまれにみる「旅行好き」の国だったという話もあるが。「江戸の旅文化」(神崎宣武、岩波新書、2004年))。その範囲を超えた地域の情報はあいまいな形でしか入ってこない。

 時間については、今の時間が中心になるのではない。未来については急速にどうなるかがわからなくなるという、過去−現在−未来では非対称になっている。また、一人の人が鮮明な記憶を持つことができる期間は50年程度だろう。これは一人の科学者の研究生活の長さでもある。地球の歴史の45億年間はその9千万倍もある。逆にいえば、地球上では繰り返し起こっている現象も、一人の人にとっては初めて起こる現象というものも多い。古老が「こんなことは今までに経験なかった。」というような現象でも、地球上では繰り返し起こっている現象も多いに違いない。

 宇宙の広がりについては、太陽をテニスボール大(直径10cm(0.1m)程度)とすると、地球はそこから11m離れたところに存在する直径1mmの球、土星は100m離れたところにある直径1cmの球、めい王星は400m離れたところにある直径0.3mmの球。これはもう実際にモデルを就くって直感できる範囲を超えている。太陽に一番近いケンタウルス座α星に至っては、太陽から2000km離れたところになってしまう。太陽系外に出ようとしているボイジャーパイオニア号は、めい王星の軌道を越えたとはいってもまだ太陽から500m程度のところまでしか到達していない。空間の広がりについては、日常から出発し、広大な宇宙から超微細の世界までもが10倍ごとのスケールで示されるイームスのパワーズ・オブ・テンがおもしろい。

地球と太陽の大きさの比較 太陽をテニスボール大としたときの、一番近い隣の恒星までの距離は2000 kmくらい。東京から2000 kmはこのくらい。

 われわれ太陽が属する銀河系の直径は10万光年(半径5万光年)、太陽はその中心から2.8万光年の位置にある。隣の大きな銀河(アンドロメダ銀河はわれわれから230万光年(銀河系の直径の23倍)の距離にある。恒星同士の距離は恒星の大きさに較べて大変に遠いが(直径の100万倍のオーダー)、銀河の大きさに比して銀河間の距離は意外と近いことがわかる。つまり、恒星同士の衝突は考えられないが、銀河同士の衝突はあり得るということになる。

 われわれが属する銀河団に一番近い隣の銀河団(おとめ座銀河団)までの距離は、約6000万光年(銀河系の直径の600倍)である。こうした銀河団がさらに超銀河団を構成し、これらかなる宇宙の大きさは現在(2005年12月)、137億光年(±2億光年)と考えられている。

 これはわれわれの宇宙が137億年前のビッグバンで始まったことをも意味する。

 おおざっぱに考えて、ここでは宇宙の年齢を150億年、地球の年齢を45億年とする。つまり地球(太陽系)が誕生したのが1年前とすると、宇宙は約3年前に誕生していたことになる。また、地球の歴史を考えると、生命が誕生したのは30億〜40億年前(2月中旬〜3月下旬)、生物の爆発的な進化起こったのは古生代の始まりの5.4億年前(11月18日ころ)、恐竜たちが繁栄していたのは2.5億年前〜6500万年前(12月10日〜11月25日ころ)、6500万年前からほ乳類が繁栄を初め、人類(ヒト、ホモ・エレクトス)が登場するのは約200万年前(12月31日の20時過ぎ)ということになる。

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