4 原子力  

 化学エネルギーで生命を維持しているわれわれ人類が(地球型生物が)、本当に核エネルギーを制御できるであろうか。 

4・6 放射性廃棄物

(1) 再処理

 原子力発電所を運転すると、どうしても放射能を持った物質ができる。この中にはプルトニウム239も含まれる。使用済み燃料棒からプルトニウム239や残ったウランを回収し、残りの放射性物質(いわゆる死の灰)を分離する工程を「再処理」という。

 日本では2000年で年間1000トン(累積16,000トン)、2010年には年間1300トン(累積28,000トン)もの使用済み燃料棒がでるという。日本は青森県六ヶ所村に大型再処理工場を建設中だが、現在はフランスに頼んでいる。つまり、フランスに使用済み核燃料棒を送って、再処理されたものを、再び日本に持ってくる。六ヶ所村の再処理工場が完成しても、その処理能力は800トン/年なので、日本の原子力発電所から出る使用済み核燃料のすべては再処理できない。現在、日本の原子力「トイレなきマンション」といわれるが、工場が完成しても根本的な解決にはならない。、

※ 日本原燃(株)六ヶ所再処理工場(年間最大処理能力:800トン)は2007年8月操業開始予定だったが、2010年10月現在ではまだ本格的な操業には至っていない。。

 使用済み核燃料(死の灰)はものすごく強い放射能を持っている。だから、この再処理の工程は大変危険なものである。また、再処理といっても放射能をなくすことは原理的にできない。そこで、実際には、プルトニウム、高放射能物質(高レベル廃棄物)、低放射能物質(低レベル廃棄物)に分けて保管する。

 原子力発電所から発生した低レベル放射性廃棄物は、2008 年3 月末現在、全国の原子力発電所内の貯蔵施設で容量200Lドラム缶に換算して約60 万本分が貯蔵されている。また、日本原燃鰍ヘ、1992 年12月に操業を開始した青森県六ヶ所村低レベル放射性廃棄物埋設施設に、2009 年11 月末現在、約21.3 万本のドラム缶を埋設処理している。再処理施設やMOX 燃料加工施設から発生した低レベル放射性廃棄物は、2008 年3 月末現在、(独)日本原子力研究開発機構と日本原燃鰍ノおいて、200Lドラム缶に換算して約14.5 万本の廃棄物が保管されている。ウラン濃縮施設やウラン燃料成型加工施設から発生したウラン廃棄物は、2008 年3 月末現在、民間のウラン燃料加工業者等に容量200Lドラム缶に換算して約4.7 万本、日本原燃鰍ノ約4,500 本、(独)日本原子力研究開発機構に約5.0 万本が保管されている。高レベル放射性廃棄物については、下の(2) 地層処分を参照。(エネルギー白書2010

 プルトニウムは、仮に高速増殖炉が実用化された場合にはその燃料となるが、それまでは(原爆以外は)使い道がない(4・3の(5)のb参照)。また、高レベルと低レベルをどこで分けるかというと、そもそもそれは厳密な区別ができるものではない。

 ただし、高速増殖炉のめどがたっていない現在、“サイクル”になる展望はまだない。低レベル・高レベル廃棄物とともに、プルトニウム239もたまる一方である。

 これまでに出してしまったものをどうするかという議論と、これからも出し続けていいのかという議論は別にしたほうがいい。また、医療用などの民生用と、原発から出る放射能など、目的のまったく違うものを混同しないほうがいい。また、このようなきわめて危険な再処理工場が、青森県の六ヶ所村という過疎で悩む地方自治体に集中している意味も考える必要がある。


図4-15 再処理を含む核燃料サイクルの概念図 資源エネルギー庁エネルギー白書2010
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/index.htm

図4-16 発電によるウラン燃料の変化 中部電力 
http://www.chuden.co.jp/energy/nuclear/nuclearfuel/cycle/index.html

 

(2) 地層処分

 このままでは高放射能物質(高レベル廃棄物)、低放射能廃棄物(低レベル廃棄物)が原子力発電所の敷地から溢れかねない。そこで政府は、まず青森県六ヶ所村に「低レベル放射性廃棄物埋設センター」(最終保管能力300万本)をつくり、低レベルのものを保管することにした。低レベルといっても環境中に漏れると大変なので、厳重な監視下におかれている。低レベルのものは、2009年3月末現在、原子力発電所から出たものだけで約60万本、その他の原子力関連施設から約14.5万本が出ている。(資源エネルギー庁放射性廃棄物のホームページ


六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物埋設センター 日本原燃
http://www.jnfl.co.jp/business-cycle/2_maisetsu/maisetsu_03/maisetsu_03_02.html

 低レベルといっても、比較的放射能が強いものについては、同じく六ヶ所村の廃棄物埋設センターに、50m〜100m程度の深さに埋設する計画だが、まだ実施に至っていない。また、さらに半減期の長いものが含まれているものについても埋設する予定であるが、まだ具体的な方法は未定である。

 一方、高レベルのものは、フランスと日本でガラス固化したものが、2010年1月段階で1664本あり、茨城県東海村と、六ヶ所村の「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」で貯蔵されている。さらに未処理のものが、2009年12月末で使用済み核燃料からガラス固化体23100本相当、2021年には4万本に達するという(資源エネルギー庁エネルギー白書2010http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/index.htm

 これらは30年〜50年冷やしながら保管する。「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」の貯蔵能力は2010年現在で1440本(将来は2880本)。その後について、現在考えられているのが「深地層処分」である。地下数百mの安定と思われる地層中に、この高レベル廃棄物を埋めてしまおうというものである。しかも、それは監視・管理もしない埋めっぱなしにするというものである。政府の考えは、「管理を続けなければ安全が保てないようなシステムであってはいけない」ということらしい。このてんについては「原子力発電環境整備機構の「なぜ地上での管理ではなく地下に処分するの?」(http://www.numo.or.jp/q_and_a/02/01.html参照)。核燃料サイクル機構は、深地層処分の研究施設として岐阜県瑞浪超深地層研究所、北海道幌延深地層研究所を建設中である。

 本当に日本に安定な地層があるのか(数千年、数万年の時間スケールで大丈夫か)、絶対に地表には影響がないのか(地下水などが汚染されないか)、数百mの深さで本当に「『深』地層」か、などの不安・疑問も指摘されている。

 また、これまで出してしまった現実に今ある放射性廃棄物をどうするかという視点からだけではなく、今後原子力発電の運転を続けたときに出るであろう放射性廃棄物を想定しているわけで、原発運転継続、さらに規模の拡大を合理化するという面もある。

 青森県六ヶ所村の日本原燃(株)の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターでは、日本の原子力発電で発生した使用済燃料を、いったんフランスのAREVA NC社(旧コジェマ社)に送り、そこで再処理したときに発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)が返還され、貯蔵されていて、これらも、貯蔵管理センターに運び込まれている。2020年ころまでの原子力発電によって生じる使用済燃料をガラス固化体に換算した量は約4万本とされ(上述)、これらのガラス固化体を最終処分するために必要な費用は、約3兆円と見積もられてる。(ガラス固化体1本当たりの単価は約3,500万円)。(資源エネルギー庁放射性廃棄物のホームページ:http://www.enecho.meti.go.jp/rw/gaiyo/gaiyo01.html、エ「ネルギー白書2010http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2010/index.htmなど)

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図4-17 放射性廃棄物の種類と発生源 資源エネルギー庁放射性廃棄物のホームページ
http://www.enecho.meti.go.jp/rw/gaiyo/gaiyo01.html


図4-18 高レベル廃棄物の処理の考え 資源エネルギー庁エネルギー白書2006
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2006EnergyHTML/html/i1230000.html

 

(3) MOX燃料とプルサーマル計画

 MOXとはMixed OXied(混合酸化物)の略である。何が混ざっているのかというと、プルトニウム239が混ざっている。つまり、高速増殖炉開発のめどが立たず、プルトニウム239がたまる一方なので、少しでもそれを、現在の軽水炉の燃料に混ぜて消費してしまおうというものである。これをプルサーマル計画という。

 もともとそのように設計されていない既存の軽水炉で、MOX燃料を使用しても大丈夫かとの不安の声もある。

 2000年度から実施の予定だったが、MOX燃料を製造したイギリスの会社のデータ改竄が明らかになって、実施が延期されていた。しかし、2009年12月2日九州電力玄海原発3号機(佐賀県玄海町)を最初に、2010年3月には四国電力伊方原発も実施し、、他の電力会社も次々に実施の予定である。ただし、東京電力は2007年の新潟県中越地震の影響で、プルサーマルを予定していた柏崎刈羽原発が全面的に運転停止状態にあるために計画実施が遠のいている。

 

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