水俣病の科学

水俣病の科学 西村肇 岡本達明 日本評論社
ISBN4-535-58303-X 3,300円 2001年6月

目次
序章 解かれなかった謎
第一章 水俣のチッソのアセトアルデヒド工場
第二章 海のメチル水銀汚染
第三章 メチル水銀の生成から抽出まで
結語
あとがき
「補論」なぜ水銀が有機物に結合するのか
さくいん

 西村氏はもと東大教授で、プロセス工学専攻。岡本氏はもとチッソ水俣工場第一組合委員長。この二人が組んで水俣病がなぜ、1954に至って突然に、そして水俣だけに発生したのかという謎に挑む。

 水俣病の原因物質が、メチル水銀であることは既に60年代には明らかになっていたわけだが、ではそのメチル水銀が、どこでどのように生成するかについては、これまであまりよくわかっていなかった。

 この本では、アセトアルデヒドを製造する過程で、水銀がどのようにメチル水銀になるのかを、「新しい有機化学」(量子化学)の眼で解明する。

 そしてその結果、アセトアルデヒド製造工程を変えた(でも、逆に一般的な工程)1953以後に大量に有機水銀がつくられ、それが信じられないずさんな設備の工場から海に漏れたことを明らかにする。

 また、その背景となるチッソの体質(モノができさえすればいい)も告発すする、たしかに水俣病発生当時は、一流企業の大工場が、しかも採算を最優先するはずの会社が、高価な水銀を垂れ流すなど信じられなかっただろう。

 では、他の工場はどうか。昭和電工が起こした第二水俣病は、昭和電工が一切の証拠は破棄してしまったので、今となっては解明できないそうである。その他の工場は、規模も小さく汚染のレベルも低かったようだ。

 西村氏は一時水俣病の研究から遠ざかっていたが、これは東大から追い出そうとする圧力のためだったことも告白している。また、岡本氏は大卒で唯一第一組合に残った人でもあるという。

 70年代に解決されたと思われていた水俣病、その原因物質であるメチル水銀がどうやってでき、そしてそれがどう海生生物を汚染していったのかが、この本でようやく解明されたという。

 著者二人の渾身の力を込めた、でも素人にもわかりやすくという努力をした本だと思う。失礼ながらお二人の年齢を考えると、これは最期の力作になるかもしれない。先日、熊本大学を「助教授」のまま定年退官した原田正純氏も、だいぶ年をとっているように見えた。

 

※ 追記:西村氏は昭和電工鹿瀬工場でもメチル水銀が生成されていたことを証明したという。(『昭和電工鹿瀬工場は大量のメチル水銀を生成していた−昭和電工の反論データを使っての逆証明−(上・下)』、現代化学2003年3月号・4月号,東京化学同人)。新潟女子短大の本間善夫氏にご指摘をいただきました。

2004年3月記

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