地球ダイナミクスとトモグラフィー

地球ダイナミクスとトモグラフィー 川勝均編 朝倉書店
4,400円 2002年6月 ISBN:4-254-16725-3

0 プレートテクトニクスの地球観(川勝均)
1 地震波トモグラフィー(川勝均)
2 マントルはめぐる(深尾良夫)
3 進化する海・陸プレート(瀬野徹三)
4 地殻のつくり方(藤井敏嗣)
5 沈み込むスラブの物語(飯高隆)
6 マントル遷移層とは何か(川勝均)
7 CMBの不思議(竹内希・清水久芳)
8 プルームを読む(安田敦)
9 地殻・マントルのリサイクル(兼岡一郎)

 東大地震研創立75周年の記念企画として企画された本の一冊(注1)。刊行の言葉に「それぞれの分野の最前線にいる研究者にわかりやすく解説してもらうことにした。その際、それぞれの巻がここの分担執筆者によるトピックスの寄せ集めにならないようにするため、それぞれの巻の中で一つの流れをつくるように努力した。」とあるが、その努力は報われていると思う(注2)。

 この本では、地震波トモグラフィーという手段によって、現在どこまで地球の内部が見えてきたかを解説している。

 私自身は7章の「CMBの不思議」に興味をもった。昔は、CMB(core-mantle boundary)は非常に明瞭でシャープな境界といわれてきた。最近の研究では約280kmの幅の遷移層があるらしいとなってきたようだ。

 もう一つ、4章の「地殻のつくり方」。冷えた海洋プレートが沈み込む島弧で、なぜマグマが発生するかという昔からの問題である。一時は沈み込むプレートは水も一緒に持ち込み、その水の存在によってマントル物質の融点が劇的に降下するためという説が強かった。しかしこの本では、島弧でも高温のマントル物質が浅いところに上昇することによって減圧融解するのではないかといっている。ただ、海嶺はマントルでつくられた玄武岩マグマがそのまま地殻になるが、島弧では沈み込む海洋プレートから放出された水が様々な物質を溶かし込んでマグマを汚染する、また地殻の一部が融けてマグマに混ざる(地殻のリサイクリング)が行われるなどによって、海と違う地殻になるという。

 あと、8章の「プルーム」を読むでは、上昇するプルームの形はきのこ状で、その巨大な頭部が昇ってきたところにデカン高原のような洪水玄武岩台地ができるという。デカン高原は厚さ1〜3kmの玄武岩が、日本の数倍の面積を覆っている。しかもこれは6500万年前の事件である。6500万年前といえば、白亜紀末の年代である(K/T境界=白亜紀/第3紀境界)。私は、このような大事件が起これば、べつに大隕石の衝突でなくても、白亜期末の生物大絶滅は説明できるのではないかと考えてしまう。

 じっさいに磯崎行雄氏は、K/T境界以上の生物大絶滅が起きたという、約2.5億年前のP/T境界(ペルム紀/三畳紀境界)は、「プルームの冬」のために起きたと考えているようだ(「地球の進化・生命の進化」生物の科学遺伝別冊No.12、2000年9月、裳華房を参照)。

(注1) この本は、全3巻の「地球科学の新展開」というシリーズ本の1巻目。以後、「地殻ダイナミクスと地震発生」「マグマダイナミクスと火山噴火」と興味深い本が続く予定。なお、地震研創立75周年記念企画の本としてはあと、「大地の躍動を見る」(山下輝夫編、岩波ジュニア新書、2000年10月)もあり、こちらも良書である。

※  地殻ダイナミクスと地震発生マグマダイナミクスと火山噴火は左を参照。

(注2) 残念ながら、日本地質学会編の「地震列島日本の謎を探る」(東京書籍、1,500円、2000年3月)と、日本火山学会編の「Q&A 火山噴火」(講談社ブルーバックス、860円、2001年4月)は、トピックスの寄せ集めになってしまっている(後者はQ&A本という性格上やむを得ない点もある)。ただし、後者の本のもとになった日本火山学会の「火山学者に聞いてみよう」はとてもよいと思う。他の学会のホームページでも、このようなサービスをしてくれるといいのだが。

2002年8月記
2003年3月追記

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