アラビアの夜の種族

アラビアの夜の種族

古川日出男  角川書店
2,700円  2001年12月 ISBN 4-04-87334-6

帯のガイドから
聖遷暦1213年、偽りの平穏に満ちたカイロ。訪れる者を幻惑するイスラムの地に、迫りくるナポレオン艦隊。対抗する手段はただひとつ、読む者を狂気に導き、歴史さえも覆す一冊の書―。

 時代はまさに、ナポレオンがエジプト・カイロに侵攻しようとするとき。当時のエジプトは23人の太守(ベイ)が群雄割拠していた。そのNo.2のイスマーイール・ベイに仕える忠実なアイーブは、この危機にいかに対応して、自分の主人を守ろうとしたか。それは、読む人をして狂気に導くという伝説の「災厄の書」を探しだし、それフランス語に訳してナポレオンに献上しようというものだった。

 しかしその「災厄の書」は本ではなく、迷路のようなカイロの街の奥深くに隠れ住む、美しい語り部(夜の種族)が語るものだった。

 「夜が朝(あした)に代わり、朝(あした)が夜に代わる」という具合に、毎夜毎夜彼女の口から出てくる物語はまことに不思議な物語だった。それは、時代も大きく離れた3人の魔法使い、勇者の話。初めは独立したこの3人の長い物語は、最後に一気にまとまる。

 そうして話が進む中、ナポレオンの軍隊は刻々とカイロに迫ってくる。「災厄の書」のフランス語訳は間に合うのだろうか。こんな危機の中、本の完成を待ちきれないイスマーイール・ベイは、できたものからそれを読み始めてしう。だが、それはじつはアイーブの…。 では、アイーブとは何者か。

 という具合に話しは続く。分厚い本だが一気に読める。

 

 ちなみにナポレオンはこのエジプト遠征に、アレキサンダー大王を真似して、科学者も大勢連れて行った。その中の一人にフーリエ(1768〜1830年)がいた。でも、「エジプトで暮らしたおかげで、真夏でもからだを繃帯でぐるぐる巻いて汗をたらたら流していないと落ち着かない、という奇妙な習慣を持つにいたったという。おそらく、その中で熱の理論を考えたのだろう。」(森敦「数学の歴史」紀伊国屋新書、1970年)って、ほんとうかな。

2002年7月記

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